連載1072 マアワビ、サケ、カキ—-などが食卓から消える!
海の中でも進む地球温暖化の深刻度 (上)
(この記事の初出は2023年8月22日)
今年の夏のような異常高温は来年も、再来年も続くのは間違いない。もはや、地球温暖化の進行は止められない状況になっている。そしてこれは、地上だけの話ではない。海の中も急速に温暖化しているのだ。
その影響は、すでに多方面で現れている。このままいくと、アワビ、サケ、カキ—-などが日本の食卓から消える日が訪れるだろう。
なぜ、政府もメディアも、いま目の前で進行している危機に疎いのだろうか?
マウイ火災を超える山火災が世界中で拡大中
最高気温35℃超えの「猛暑日」の日数記録が、毎日のように更新されている。明らかに地球温暖化の影響であり、これを止めない限り、人類社会のSDGsなどありえない。ウクライナ戦争だの、台湾有事だの、経済安全保障だの、そんなことにかまけていると、本当に時間がなくなってしまうだろう。
それにしても、ショックだったのはマウイ島の山火事でラハイナの街が焼失したしまったことだ。ニュース映像でその状況を見るたびに、かつて何度か訪れたことを思い出して胸が痛む。夕刻、海外通りをぶらぶら歩いたこと、沖に出てクジラを見たことなどが、脳裏に蘇る。もう、2度とそんなハワイでの休日はやってこないだろう。
しかし、マウイ島の山火事など、じつはたいしたことではない。世界では、もっと深刻な山火事が起こっていて、大量のGHG(温室効果ガス)を排出している。いまだに燃え続けているカナダのオーロラの街イエローナイフに迫る山火事は、これまでに北海道と九州を合わせた以上の面積を焼き尽くした。大西洋のスペイン領カナリア諸島でも、山火事は依然として燃え続けている。
森林消失によりカーボンニュートラが遠のく
ここ数年、山火事は頻繁に起こるようになった。これまで山火事が頻発したカリフォルニアやオーストラリア東部では、もう大規模な山火事が起こるような森林はなくなってしまった。今年に入ってからは、スペイン、ポルトガル、ギリシャのロードス島、南米のチリなどで、大規模な山火事が発生している。
すべて、いままでになかった異常な熱波が原因だ。
近年の大規模な山火事が恐ろしいのは、火力が強く、なにもかも焼き尽くしてしまうことだ。普通、木が燃えても、地面に落ちた種子がいずれ発芽して、数年かけて森林は復活する。しかし、いまの山火事は地面に落ちた種子まで焼き尽くしてしまうので、植林を行わなければ森林は永遠に失われる。
森林は光合成により二酸化炭素(CO2)を吸収し、酸素を放出する。つまり、森林が失われることは、大気中のCO2が増えて温暖化が進むことを意味する。
現在、日本は2050年カーボンニュートラル達成のため、GHGの排出量を2030年度までに2013年度比で26%削減するという目標を立てている。このうちの2.7%(約3800万CO2トン)を森林吸収量で確保することになっている。
幸い日本では、これまで大規模な山火事は起こっていないが、起こればこの目論見はたちまち崩壊する。
ちなみに、カーボンニュートラルとは、CO2などのGHGの「排出量」と、森林などによる「吸収量」が同じになることを指す。
(つづく)
この続きは9月11日(月)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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