連載1089 覇権国アメリカの「内憂外患」 万引き、不法移民、高齢大統領、ウクライナの「4重苦」(中2)

連載1089 覇権国アメリカの「内憂外患」 万引き、不法移民、高齢大統領、ウクライナの「4重苦」(中2)

(この記事の初出は2023年9月12日)

 

万引きを「軽犯罪」にしてしまった法改正

 アメリカが「万引き天国」になった原因は、万引きが軽犯罪扱いになったことだとされている。
 2014年、カリフォルニア州では、「プロポジション47」(Proposition 47:州法修正案47)が可決され、1度につき950ドル以下(約14万円)の窃盗は「軽犯罪」扱いになった。簡単に言うと、万引きした商品が950ドル以下なら、警察は逮捕してもすぐ保釈する。罰金程度で済むということ。
 カリフォルニア州を含む全米各州では、犯罪は「違反」(Infraction)、「軽犯罪」(Misdemeanor)、「重犯罪」(Felony)の3つのカテゴリーに分類され、それぞれ罰則が違う。万引きはそれまでは重犯罪だった。
 カリフォルニア州のこの見直しは、その後、全米の各州に広がり、いまやほとんどの民主党州で万引きは軽犯罪になった。
 なんで、こんな馬鹿げたことを決めたのだろうか?
 それは、すべてコストパフォーマンスに起因する。犯罪そのものよりも、犯罪対策、犯罪防止にかかるコストを計算した結果だ。

刑務所は満杯でこれ以上収監できない

 犯罪対策、犯罪防止にはコストがかかる。そのためには、税金をつぎ込まなければならない
 となると、ちょっとした万引き犯を逮捕していちいち刑務所送りにしていたら、そのコストは莫大になり、はたしてそれに見合う効果が得られるとは限らない。ともかく、捜査費用だけ出費がかさむ。それで、少額の万引きなら、大抵の場合、生活困窮者の犯罪なので、お目こぼししようということになった。これが、第一の理由だ。
 もう一つの理由は、すでに、刑務所は満杯で、これ以上収監できないところまできていた。新しい刑務所をつくって、さらに収監者を増やしたら、コストは際限がなくなる。ならば、重犯罪を重視し、軽犯罪にはなるべく費用も時間も割かないことにしようとなったのである。
 こうして、万引きは全国規模となり、聖域都市、ニューヨーク、ロサンゼルス、シアトル、シカゴ、ワシントンDCなどは、いまや万引き多発都市になってしまった。多くの店で、ショーケースには鍵がかけられ、盗まれる恐れのある商品は店の奥にしまわれて店員に言わないと買えなくなってしまった。
 このままいくと、聖域都市のある民主党州から、共和党州への人口移動が進む。とくに、富裕層は、その傾向を強めている。カリフォルニアからテキサスに居を写した富裕層も多い。

1日に300〜500人に不法移民がNYに到着

 聖域都市、民主党州を混乱に陥れているもう一つの問題は、「不法移民」の増加だ。ニューヨークの場合、それが度を超えて、いまやマンハッタンの治安は悪化の一途をたどっている。
 8月半ば、ニューヨークのエリック・アダムス市長は、不法移民が現状のペースでNYにやって来れば、市が住居などを支援する亡命希望者の数が2025年までに推定10万人に達し、3年間で総額120億ドル(約1兆7600億円)が必要になると警告した。
 しかし、こうしたアダムス市長の警告は、移民にNY以外に行くことを促しているとし、市の保護条例違反だと批判を浴びるのだから、移民増加は止まらない。
 現在、NYのホームレス保護施設には11万人以上が収容されている。そのうちの53%が亡命希望者(不法移民)という。
 なにしろ、不法移民は、いまも1日に300〜500人のペースでNYに到着する。テキサスなどの南部諸州から、移民移送バスに乗せられて、続々とやって来る。彼らが行く先は、NY市が設けたシェルターや収容施設だが、すでにその数は足りなくなっている。


(つづく)

この続きは10月4日(水)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

 

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