連載1128 追い込まれた海洋国家ニッポン 負けられない「日中韓造船ウォーズ」 (中)

連載1128 追い込まれた海洋国家ニッポン
負けられない「日中韓造船ウォーズ」 (中)

(この記事の初出は2023年11月14日)

コロナ禍でさらに競争が激化したコンテナ輸送

 海運で留意しなければならないのは、輸送するモノによって使用する船舶の種類が変わることだ。
 コンテナ輸送の「コンテナ船」、石炭、鉄鉱石などを梱包せずにそのまま輸送する「バルク船」、石油輸送の「タンカー」、LNG輸送の「LNG船」、自動車輸送の「自動車船」、化学薬品用の「ケミカルタンカー」などがあり、海運会社によって得意分野が違う。
 ただし、現在、貨物輸送の主流はコンテナだから、コンテナ船輸送の規模によって、海運会社のランキングがほぼ決まる。
 現在の世界ランキング第1位は、スイスに本社を置くMSC(メディタレニアン・シッピング・カンパニー)グループ、第2位はデンマークのA・P・モラー・マースク、第3位はフランスのCMA-CGM。いずれも世界規模の海運ネットワークを持つ国際コングロマリットである。
 日本勢は第7位に、日本郵船、商船三井、川崎汽船の大手3社がコンテナ部門を統合したオーシャン・ネットワーク・エクスプレス(ONEジャパン)が入っているが、第4位は中国のCOSCO SHIPPING Lines(中運海運集装箱運輸)、第5位もエバーグリン・マリン(長栄海運)である。ONEジャパンの下の第8位に韓国勢のHMM(旧現代商船)が入っていて、近年、国際競争は激しさを増している。 
 とくに、2010年代前半からは、国際アライアンス、企業の合従連衡が進んだ。

コロナ禍明けで業績回復した海運大手3社

 日本の海運大手3社は、世界の大手海運と比較すると、コンテナ、タンカー、バルクなどから旅客輸送まで幅広く手がけている。そのため、景気の動向をもっとも受けやすい。
 海運業界の売上げを見ていくと、2010年ぐらいからは増減を繰り返しながら減少傾向に陥り、とくに2015年は中国向けの鉄鉱石や石炭の輸出が大幅に減少したことから各社とも大幅な売上ダウンを記録した。
 そうして、2017年からは一段と減少傾向が強くなっている。これは、米中の貿易戦争の影響や船の燃料となる原油価格が上昇したことが原因だ。
 その結果、2017年にONEジャパンがつくられ、2018年には商船三井がオランダのAzalea社を100%出資子会社としている。
 2020年に起こったコロナ禍は、状況をさらに悪化させた。世界のコンテナの大半を生産する中国の生産が減速し、ロックダウンによる物流の停滞が起こったからだ。ただし、コロナ禍が明けたいまは、状況はある程度改善された。2023年3月期の決算では、大手3社は空前の最終利益を計上している。
 しかし、この先はわからない。世界的なインフレで、コストが日ごとにアップしている。この影響を受けないわけがないからだ。

造船は「日中韓3強」から「中韓2強」に

 では、船舶を建造する造船業はどうなっているのだろうか?
 造船竣工量(どのくらい船をつくったか)を国別で見ると、世界第1位は中国、第2位は韓国、そして第3位が日本となっている。この3カ国で世界の竣工量の約95%を占めている。
 20世紀半ばまでは欧州各国、なかでも英国が世界第1位だったが、1956年に日本が追い抜き、以後、約40年間は世界第1位だった。
 1973年に、日本の造船竣工量は1419万総トン(船の外板の内側から外板の内側まですべての容積)に達し、世界シェアの48.5%を占めた。
 しかし、1990年代後半になると韓国、2000年代に入ると中国の造船竣工量が飛躍的に増え、日本は第3位に転落。ここ数年、日本の世界シェアは20%ほどで、中韓が増えているなかで減少を続けている。
 国土交通省の「造船企業グループ合算竣工量ランキング」(2021年、トン数)によると、日本勢は、世界第5位に今治造船(361万トン)、第7位にJMU:ジャパン マリンユナイテッド(192万トン)、第8位に川崎重工業(189万トン)、第10位に常石造船(147万トン)が入っているが、第1位は中国のCSSC(中国船舶工業集団と中国船舶重工集団が統合した造船グループ、1077万トン)、第2位が韓国の現代重工業(985万トン)で、この2グループのシェアは圧倒的だ。
 なお、今治造船とJMUは2021年1月に業務提携している。
 ランキングを続けて見ると、第3位は韓国の大宇造船海洋(2023年5月ハンファグループが買収し、ハンファオーシャンに社名変更、464万トン)、第4位は韓国のサムスン重工業(439万トン)が入り、10位以下には、江蘇真珠第造船(184万トン)、上海外高速造船(173万トン)、大連船舶重工業(126万トン)などの中国勢がずらっと並んでいる。もはや、日中韓3強ではなく、造船は中韓の2強時代に突入していると言っていい。

(つづく)

 

この続きは12月13日(水)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

 

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