前にアメリカ人の友達と話してた。彼は日系アメリカ人で、両親が日本人。カリフォルニアで生まれ、大人になってから日本に来た。日本に来て彼は、マッチングアプリをやってるとほとんどの人たちが顔を出していなくて、困惑したらしい。確かに日本にいるとき、僕の友達がマッチングアプリをやっていてそれを見てたんだけど、犬や、猫や、ひどいのは松の木の写真をアイコンにしてて、どんだけ身元がバレることを恐れてるんだ、と思った。

そんな彼が日本はなぜキャバクラとか、スナックがあるんだろうと不思議がっていた。確かに僕も子どもの頃から、日本で育ってるから当たり前になっていたけど、人と話すのにどうしてお金を払わないといけないんだ、と、そう言えばそうだと思った。
今、日本では会社を辞めるときに、代行で「会社に辞めます」というサービスがあったりする。もちろんブラックな企業もあるから、それは分かるんだけど、人との対話がすごくハードル高く感じる。人と人が声をかけ合うことが慣れてなさすぎて、バーで隣の人に声をかけると「ナンパだと思われる」から止めておこうとなる。それでアメリカ人の友人は日本語を使って練習がしたいのに、カフェなどで人に声をかけられなかったらしい。
それで言うとニューヨークは、声をかけるハードルが低い。バーやレストランで、ご飯食べてる隣の人に普通に声をかけられたりする。この前映画を見に行った。英語はまだ分からないけど、空気だけでも味わおうと。オスカーを取った「アノーラ」をやっていて、その翌日はボブ・ディランの映画もやっていた。チケットを販売してる若い男の人に「英語分からないけど大丈夫かなぁ?」と言ったら「全然、大丈夫!面白いよ!この映画はマジで最高だよ!」と言ってくれた。
普通、「大丈夫ですよ」だけなのに「大丈夫、面白い、この映画は最高だよ」と、個人的な感想まで伝えてくれる。個人的な感想ってすごく大事で、映画館の従業員と客という枠を壊してくれる。個人的な彼の意見だからだ。そして、俺も自然とこの国では自分から「英語分からなくても大丈夫かなぁ?」って言葉を使いたくなった。映画は最高だった、映画を見終わって、エレベーターで1階に降りるとき、下を見たらカウンターでさっきの受付の男がいたから彼に向かって「Awesome!!」(最高だったよ!!)と大声で叫んだ。彼も「だろ!!!」みたいなことを返してくれた。
子どもの頃、クレヨンを手にしたらあっちこっちに落書きしてた、使いたくなるんだ。でも大人になると落書きはなかなかできない。あっちこっちに “落書き禁止” と張り紙がある。書いていいのはスケッチブックだけ、みたいな。それに比べてニューヨークは街中落書きだらけ。それに少し似ていて、言葉をどこでも使ってもいい空気がある。この言葉を彼に言ってみよう、あの言葉を彼女に言ってみよう。この国にいると早く英語を話せるようになりそうだ。
Profile:村本大輔
「アメリカでスタンダップコメディーがしたい」と2024年2月に、単身でニューヨークに来たウーマンラッシュアワー・村本大輔(43)。日本のテレビ界を抜け、アメリカのコメディーシーンに魅力を感じ自分を試すため、毎晩コメディークラブに飛び込みオープンマイクを握る。この連載では、そんな彼がニューヨークという劇場を舞台に繰り広げる、一筋縄ではいかずともどこか愛おしいニューライフをつづります。
公式INSTAGRAM
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公式X
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ドキュメンタリー映画「アイアム・ア・コメディアン」
https://iamacomedian.jp/
過去のエピソード
第1回 「パクチーが、言えない」
第2回 「This is America!」
第3回 「あの日々は夢だった? 竜宮城(日本)より」
第4回 「にぎやかな街と、僕」
第5回「保険に入っていなくて、病院にかかった」
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