2025.02.28 COLUMN 村本大輔のニューヨーク劇場

村本大輔のニューヨーク劇場 第5回「保険に入っていなくて、病院にかかった」

ウーマンラッシュアワー・村本大輔 Photo: Yuki Kunishima

大人になってから大きな病気ひとつせず、風邪をひいたとしても寝ればすぐに治っていた。だから日本にいた時、国民健康保険は、病気もしないのにこんなに高いお金を払わされてると思ってた。だから僕はアメリカに引っ越してきて保険に入ってなかった。「まあ、のちのち、暇ができたら」と思っていた。どうせ、病気なんてしないのだから、と。

ウーマンラッシュアワー・村本大輔 Photo: Yuki Kunishima

最近、仕事で2カ月ほど日本に戻っていて、ニューヨークに帰ってきた。空港に着いたのは遅く、夜の10時に家に到着した。しかし、その足で夜中に近所の友達を誘ってバーに飲みに行った。浴びるほどワインを飲んで泥酔して寝れば、時差ボケも治るんじゃないかと思って。そして、夜中1時にベッドに倒れ込むように寝ることができた。しかし朝4時か、5時ごろにバッチリ目が覚めてしまった。時差ボケだ、アルコールじゃごまかせない。いや少し体の様子がおかしい。全身がすごく熱をもってる。風邪か?嫌な予感がした。トイレに行こうと思って立ち上がったら、右の睾丸・・・タマがすごく痛い。トイレに行っておしっこをした時に少し触ってみたら、右だけめちゃくちゃ大きくなっていた。腫れていた。551の肉まんぐらい大きくなっていた。普段は井村屋ぐらいなのに。
 
驚いたけど、過去に一度そのような経験があった。何年か前にインフルエンザにかかって、その時もタマがめちゃくちゃ大きくなっていて病院に行ったら、インフルエンザの菌がタマに落ちてしまったとその時の先生は言っていた。当時は病院に行きインフルエンザの薬と抗生剤みたいなので治したんだけど、おそらく今回もそれだろうと近所の友達に連絡したら、インフルエンザの薬を持ってきてくれた。

ニューヨークは保険に入っていても病院代が高く、そのため薬局で買う薬の効き目が強い。僕もまだ保険に入ってないので、薬を飲んで寝て治すことにした。そのタイミングでちょうどシカゴから友達家族が僕に会いにニューヨークに来てくれていたんだけど、この状態じゃ遊べないと伝えると彼らも気にしてくれて、たくさんの水や氷やいろんなものを買って家に持ってきてくれた。

インスタグラムにそのことを書いたら、ニューヨークにいる日本人たちからたくさんの心配の連絡があって、みんな「何か持ってくよ」って言ってくれた。知らない国で体を壊すことはこんなに不安なことで、知らない国で仲間がいるってこんなに心強いことなんだと知った。しかし、タマが腫れて体が熱をもってるのに加えて時差ボケで寝れないため心がどんどん疲弊していく。夜中にトイレに行ったらついに血尿が出てしまった。それをシカゴから来てくれてる夫婦の奥さんに伝えたら、彼女の父親は血尿が出て、病院に行ったら、膀胱がんだったと。「血尿は本当に危ないサインだから絶対に病院に行ってほしい」と言われた。

その日はニューヨークに寒波が来た日、熱のある体で、僕はシカゴの夫婦の付き添いで近所の診療所に行った。ちなみに保険には入ってない。ニューヨークで保険に入っていないのに病院に行って、とんでもない額だったって話は山ほど聞いてきた。とりあえず受付で、先生にとりあえず会うだけで200ドルと言われた。僕はアメリカでは稼いでないので日本の銀行から日本円で支払う、円換算したら2万6000円ぐらい?そこから必要な治療があれば追加で料金がかかるらしい。テンションはグッと下がったけど「全ては保険に入ってない俺のせいだ」と諦め、診察室に入った。

シカゴの夫婦は待合室で待っててくれて、僕だけ診察室でとりあえず尿を採り、パンツとズボンを脱いで先生にタマを触られた。「なんでも鑑定団」のように俺のタマを触って、じっくり見られる。「ここは痛い?ここは?」と聞かれ、それに答える。しばらくして超音波検査を受ける?と聞かれた。とりあえず、よく分からず「YES」と答えたら、ここではない「ER」に行ってくれと。ERを調べたら、救急病院だった。「え、ちょっと待って、払えるのか?」とりあえずシカゴの友人についてきてもらいその病院へ。 心配だったので受付で「超音波検査いくらかかりますか?」と聞いたら「やってみないと分からない」と言われた。なんだそれは。美容室に行ってパーマあててください、いくらですか?「あててみないと分かりません」とは言われないだろう。

保険に入っていない状態でのその言葉には不安しかない。そこで、僕の唯一の友達である ChatGPT 様にアメリカで保険なしで超音波検査はいくらかかるか聞いてみた。5000ドルかかったケースもあると出てきた。日本円で60万円ぐらいだと言われた。マジか、検査だけで60万円!?そこから治療するとか入院するとかなったら一体いくらかかるんだ。そうなったら日本に帰って検査を受けた方が、そのまま入院するにしても絶対安い。金額を調べたら往復20万円。そうしよう、その金額で明日帰って病院に直行しよう。

すると、シカゴの奥さんが「お願いだから、お金なら私たちが払うから、返さなくていいから診てもらって」と言ってきた。彼女はもし万が一のことがあったら、緊急を要するものだったら、日本に戻ってからでは手遅れになる、と心配してくれた。それはうれしいんだけど、さすがにお金を出してもらうわけにはいかない。そしてニューヨークの近所の友達に連絡したら「あなた、医者にER行く?と言われて、うん、て言っただろ。あんなところは本当にヤバくなった人が行くところだ。金額だって ChatGPT の言った金額どころじゃないぞ!そんなの医者に言って抗生物質もらってケツに注射打ってもらうだけでいいんだから、もう1回診療所行っておいで、ERに行く必要はない」と言われた。だからもう1回診療所に行って受付で名前を言ったら、前の診断のデータが出ているらしく「結果は同じ答えになるから意味がない。先生は診てくれない」と断られた。そうなれば「違う診療所だ」と思い、そこから離れた違う診療所に行って受付で名前を伝えた。

しかし、恐るべしアメリカ。そこも系列の病院らしく「あなた、違う病院に行って超音波検査受けろって言われてるわね」と断られた。僕は彼女に「そう言われたけど僕は保険に入ってない。超音波検査代なんか払えない。抗生物質が欲しい。そしてケツに注射を打ってくれ」と伝えた。受付の彼女は冷たく「同じ結果になるわよ」「先生に会うだけでまた200ドルかかるわよ」と冷たく言い放った。僕からすれば60万円よりマシだからお願いします、と。先生に会って懇願すれば、超音波検査を受けずに抗生物質とケツ注射だけで済むだろうと思った。

診察前の会計はシカゴの友達が勝手に払ってくれた。なんて優しいんだ。診察室に入ってまた検尿。ジョーカーの彼女のハーレークイーンみたいな女医が出てきて、ズボンを脱がされ、またタマをなんでも鑑定団のようにつかまれてまじまじと見られた。先生は僕に「分からないから超音波検査だ」と言った。保険に入ってないから抗生物質とケツに注射を打ってくれとお願いしたんだけど、医者は「分からないことに対してそれはできない」の一点張り。シカゴの友人も来てもらって、英語が分からない僕に代わって話してもらった。

そしたらシカゴの友人が笑いながら「really!?」なんて言ってるからどうしたの?って聞いたら「とりあえず抗生物質は出せない。だけど、超音波検査のお金は踏み倒しなさい、大丈夫だから」って言ってると。さすがジョーカーの彼女。狂ってる。医者が「踏み倒して逃げろ」だ?さすがニューヨークだ。

しかも彼女は今回の診療代200ドルも必要ないと言ってくれた。なんて優しいんだ。しかし踏み倒す勇気もない僕は、さすがに「踏み倒せない。日本に戻って治療を受ける」と伝えたらシカゴの友人が絶望した顔で「なんかあったらどうするの?お願いだから受けて」と、親のように心配してきた。そしたらさっきまで抗生物質を飲めばいいと言ってたもうひとりのニューヨークの友達から電話があり「私の友達の医者に今話を聞いてるけど、あなたのそれはタマがねじれてるからかもしれない!超音波検査を受けた方がいいかもしれないと言っている」と。なんだそれは?とまた ChatGPT に聞いたら、本当にそんな病気があるらしく、「6時間以内に病院に行かないと、そのタマは死んでしまう」と書いてあった。しかし治療費を調べたら、「過去に330万円かかった人がいた」と出てきた。330万円!?しかし不思議なものだ。330万円の車は気に入ったら買おうと思うのに、車より大切な体は330万円で高いと感じてしまう。

今までいかに自分の体を大切にしてこなかったか…体に申し訳ない気持ちになった。すると友達があなたのクレジットカードに保険は付いてないの?と言ってきたので調べたら僕のカードは旅行をよくする人のためのカードで、旅行保険が付いていて「100万円まで保証される」と書いてあった。しかしタマの治療をすれば330万円。しかしないよりはマシだ、僕はERに行った。小さなタイヤの付いたベットに乗せられ、そのまま超音波検査室へ。さすがER、すれ違う患者たちの目は死んでいる。みな、最後の最期にここを訪れた人たちだ。ベットで運ばれる俺にアイコンタクトをしてきた。「あの世で会おう」みたいな顔をしてたような気がする。

そして診察室に入り、妊婦さんがお腹に塗るようなジェルみたいなのを塗り、機械でタマを触られた。ドキドキする。タマはねじれて死んでるのか、お腹を切られるようにタマを切られるんだろうか、ドキドキ。終わって1時間ぐらい待たされた。しばらくしたら医者が2人、深刻な顔で出てきた。シカゴの友人は「外に出ておいて」とベットルームから閉め出された。俺が英語はまだ分からないと伝えると医者が「iPhoneの翻訳機があるから大丈夫」と言って英語でスマホに語り出した。病院の中は電波が悪く、時間差で翻訳しだした。しかし聞いたことのない言語だった。そのあと医者が「あ、ウクライナ語と間違えた」と言った。おいおい、緊張感返せよ。

そしてもう一度、英語で話しかけた。また読み込みに時間がかかり、そのあと siri の声で日本語で「アナタハセイビョウデスカ?」と聞かれた。「違います、知らんけど」と答えた。え、性病?なに、がんとかじゃないの?タマがねじれてるとかじゃないの?そうではないと、タマにウイルスが入ってるから汚れた手でマスターベーションしたか、あるいは性病かと思ったらしい。すると「とりあえずケツに注射打って抗生物質だけでいい」と言われた。え!!なんだったの、さっきの60万円の超音波検査は!!こっちの読み通りだったやん!!!僕はケツに注射を打たれ帰らされた。しかし危なかった、僕はケツに注射だけ打つために日本に帰るところだった。なんなら病院のベットでうなだれてる写真をシカゴの友達が撮ってくれたのでインスタに上げたら、ネットニュースの1位とかになってたくさんの人たちから心配された。緊急入院したと思った人たちもいた。

僕は「保険に入ってないのに緊急病棟」としか書いてなかったから、みんなただの性病疑惑で右のタマが腫れただけだったのに、何があったんだって心配してた。とにかく僕は noteっていうアプリで記事を書いてるので、これを記事にして病院代を稼ごうと自分のその体験を記事にした。たくさんの人が買ってくれて60万とはいかないけどお金は集まった。

後日、診察の結果と請求書が来た。性病検査も引っかかってなかった。インフルもコロナも。多分、日本から戻ってきて時差ボケで免疫が落ちている中、過度の深酒をしてそうなったんだろうと友達は言った。現在は薬も飲んで、タマは井村屋どころか雪見だいふくぐらいになっている。そして請求はなんと800ドルだった。しかもマイナス600ドルとなっていて最終的な請求額は200ドルと書いてあった。ニューヨークのルールなのか、その病院のシステムなのか、保険に入ってない人のために割り引きするシステムみたいなのがあって、保険に入ってる人より少し安い値段になっていた。なんだこれは。ニューヨークの医療の話はネガティヴな話ししか聞いたことがなかった。こんなこともあるんだ。

俺は保険なしでERに行き、noteで記事を書き、ひともうけし、舞台で話す素晴らしいニューヨークのネタができた。とりあえずこの200ドルを踏み倒すかいま迷っている。

Profile:村本大輔

「アメリカでスタンダップコメディーがしたい」と2024年2月に、単身でニューヨークに来たウーマンラッシュアワー・村本大輔(43)。日本のテレビ界を抜け、アメリカのコメディーシーンに魅力を感じ自分を試すため、毎晩コメディークラブに飛び込みオープンマイクを握る。この連載では、そんな彼がニューヨークという劇場を舞台に繰り広げる、一筋縄ではいかずともどこか愛おしいニューライフをつづります。

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ドキュメンタリー映画「アイアム・ア・コメディアン」
https://iamacomedian.jp/

過去のエピソード
第1回 「パクチーが、言えない」
第2回 「This is America!」
第3回 「あの日々は夢だった? 竜宮城(日本)より」
第4回 「にぎやかな街と、僕」

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