2025.02.04 COLUMN 村本大輔のニューヨーク劇場

村本大輔のニューヨーク劇場 第4回「にぎやかな街と、僕」

ウーマンラッシュアワー・村本大輔 Photo: Yuki Kunishima

僕はクリスマスとカウントダウンの時はニューヨークから日本に帰国していた。そして1月中旬にニューヨークに戻ってきた。それを人に言うと日本人もニューヨークの人もみんな驚く、「どうしてニューヨークのクリスマスとタイムズスクエアのカウントダウンを経験しないんだ、せっかくニューヨークに住んでるのにもったいないよ!」と。

ウーマンラッシュアワー・村本大輔 Photo: Yuki Kunishima

ニューヨークには2024年2月に引っ越してきたので、僕はまだクリスマスとカウントダウンを経験していない。なぜ、今回その期間日本に戻っていたか? 日本に予定があったからニューヨークを出てきたんじゃない。ニューヨークでクリスマスとカウントダウンがあったから、僕は日本に避難してきたんだ。日本に避難するために、日本でのライブの予定をたくさん入れた。僕はにぎやかで明るいところが好きではない。はっきり言うと僕はキラキラした派手なニューヨークとの相性は良くない、苦手だ。

僕は福井県出身、福井県の中でも嶺南と言って福井の中のさらに田舎の福井だ、天気のほとんどは曇り空、成人式は貧富の差を感じさせないように着物と袴禁止、みんなスーツ、そんな街で育った僕がニューヨークのキラキラなんか食らってしまったら、耐性がなさすぎて焼け焦げてしまう。

ハロウィンのニューヨークは地獄だった。すれ違う人たちはみんな、なにかしらの仮装をし、コメディークラブのコメディアンたちでさえ、なにかしらの仮装をしていた。僕はなんの仮装もしなかったから、いつもコメディークラブで会うコメディアンが、スポンジボブの仮装をしながら「おい、大輔!どうしてお前は仮装してないんだ!」と尋ねてきたとき、「たまたまコスチュームを忘れたんだよ、本当はしたかったよ」と、本当はパーティーピーポーですと嘘をつき本性を仮装した。とにかく僕は派手なニューヨークとは合わない、どちらかというとヨーロッパだ、ヨーロッパといってもパリとかロンドンではない、ポーランドなどの東ヨーロッパの落ち着きが好きだ。

日本に滞在してる間、ライブのツアーで全国を回り、1日たりとも同じ街に滞在しなかった。北海道なら、函館、札幌、帯広、旭川、富良野 etc・・・。真っ白な雪に包まれたあの大地を、タンブラーにおいしいコーヒーを注いで電車で走る時間が大好きだ、瀬戸内海の小さな島々をフェリーでゆっくりと海を歩くかのように進んでいく時間が好きだ。地下鉄で手すりにぶら下がってダンスを見させられた後、チップをせびられるのは好きじゃない、タイタニック号が沈没するかのように大雨の日に洪水が地下鉄に流れ落ちてくるのは好きじゃない。

日本にいる時、ニューヨークの地下鉄でのニュースをたくさん目にした。ニュースは人間を不安にさせる道具だから、しょうがないんだけど、誰かが撃たれた、燃やされた、ホームに突き落とされた。トドメは、瀬戸内海をフェリーで走ってる時、ニューヨークの友達から写真付きでメッセージで「大輔のよく行くコーヒーショップの窓に銃弾が撃ち込まれてるよ」と。

芸人というのは本当に不思議なものだ。「アジア人差別があった」「イスラエルのジョークはユダヤ人が多いからやめた方がいい」それらを見るたびに、聞くたびに、なぜかニューヨークに戻りたいと心の奥から思ってしまうんだ。ハロウィン、クリスマス、カウントダウンは避けてしまう僕だけど、人間の人間的不安を強烈に感じさせてくれるニューヨークにビリビリくる。

日本に戻ってきて改めてあの街は、常に人々が自分が信じる正義をぶつけ合い、争いをなくすために争い合い、嘘みたいに悪い奴も嘘みたいにいい奴も、嘘みたいな金持ちも嘘みたいなホームレスも、いろんな奴があふれている。彼らとの出会いも、行きつけのカフェに銃が撃ち込まれたことも、すべては、あの街のステージに上がって、ジョークにするための景色だ。

ニューヨークにいる時は日本の街の風景や友達との時間が恋しかった、しかし日本にいる時は、あの街の朝のコーヒーとコメディアンからの「You killed it!」(めっちゃウケたね)が恋しかった。朝、コーヒーを飲んでる時間はとても心が落ち着く、店主も銃を撃ち込んだ奴に、コーヒー飲ませてやったらよかったのに。

Profile:村本大輔

「アメリカでスタンダップコメディーがしたい」と2024年2月に、単身でニューヨークに来たウーマンラッシュアワー・村本大輔(43)。日本のテレビ界を抜け、アメリカのコメディーシーンに魅力を感じ自分を試すため、毎晩コメディークラブに飛び込みオープンマイクを握る。この連載では、そんな彼がニューヨークという劇場を舞台に繰り広げる、一筋縄ではいかずともどこか愛おしいニューライフをつづります。

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ドキュメンタリー映画「アイアム・ア・コメディアン」
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過去のエピソード
第1回 「パクチーが、言えない」
第2回 「This is America!」
第3回 「あの日々は夢だった? 竜宮城(日本)より」

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