日韓欧など名指しの「ダーティー15」とは?
先のブルームバーグ報道は、ホワイトハウス関係者の話として、「トランプ大統領が相互関税の問題を議論するときに、EU、メキシコ、日本、韓国、カナダ、インド、中国を『不公正貿易国』と名指しした」と伝えている。
つまり、トランプはアメリカから見た貿易赤字国に対しては、徹底した相互関税を課すことを望んでいるのだ。
トランプの側近である財務長官のスコット・ベッセントは、これらの国々を「ダーティー15」と呼んでいることを明かしている。
ベッセント3月18日のフォックスニュースとのインタビューで、「われわれがダーティー15と呼ぶ国があるが、これらの国は相当な関税を(アメリカに)課している。ただ、相互関税率は国ごとに異なるだろう」と述べている。
ただし、ベッセントは「ダーティー15」が具体的にどの国々かは明らかにしなかった。
といっても、それは言われなくともわかる。次が、アメリカの貿易赤字国で、これらの国々であることは明白だからだ
アメリカ商務省が2月5日発表した2024年の貿易統計(国際収支ベース、季節調整済み)によると、モノの輸出額から輸入額を差し引いた貿易赤字額は、前年比14.0%増の1兆2117億ドル(約185兆円)で過去最大。貿易赤字の相手国の順位は、1位が中国でダントツの2954億ドル。以下、2位メキシコ、3位ベトナム、4位アイルランド、5位ドイツ、6位台湾と続き、日本は7位となっている。日本の次の8位は韓国、9位はカナダである。
もはや「チャイナ+ワン」は通用しない
日本政府が、トランプ政権に対してどのように関税の適用外、お目こぼしを願い出ているのかはわからない。ただ、少なくとも「ダーティー15」に含まれる国々の中では、ほぼなんの対策もとってないのではないか。
EUやカナダなどは「報復関税」などの対抗措置をとったが、新興国となるとそうはいかない。アメリカ企業の誘致や関税引き下げを行い、相互関税のダメージを少しでも減らそうとしている。そのため、経済担当のトップがワシントン詣でをしている。
たとえば、なんとアメリカの貿易赤字第3位になったベトナムがそうだ。ベトナムの場合、「チャイナ+(プラス)ワン」の最適地として、これまで大発展を遂げてきた。しかし、今回は中国ばかりではなく、トランプは全世界に関税をふっかけているので、もう「チャイナ+ワン」は通用しない。
しかも、中国経済は失速中で、中国との貿易も縮小せざるを得ない。まさに、挟み撃ちの状況になっている。「チャイナ+ワン」が通用しないのは、日本も韓国も同じである。
ベトナムだけではない。他のASEAN諸国、たとえば自動車産業があるタイ、家電、半導体産業を持つマレーシアなども大きなダメージを受ける。現在、ASEAN諸国の全輸出に占める対米輸出の割合は、約2割まで拡大している。世界でもっとも経済成長しているASEANが不況になれば、それは全世界に及ぶ。
ウクライナ戦争の停戦がターニングポイント
すでに株式市場は、全世界で低迷している。今後さらにトランプ関税が拡大すれば、暴落が起こる可能性が高まる。
そのターニングポイントは、相互関税が発表されるという4月2日だが、もう一つある。ウクライナ戦争の一時停戦のデッドラインとされる4月20日だ。
トランプは盛んに「停戦できる」と楽観論を振りまいているが、もしできなかった場合、そのダメージは世界経済全体に及ぶ。
トランプにブレーキをかけられる人間は?
トランプの世界中を不況に引きずり込む、馬鹿げた関税政策にブレーキをかけられる人間は、いまのところ、政権内にはいない。
直接の担当である通商代表部(USTR)代表のジェミソン・グリアは、敬虔なモルモン教徒の弁護士で、第一次政権以来のトランプの“忠犬”だ。ウォール街から政権入りした2人、商務長官のハワード・ラトニックと財務長官のベッセントも、これまでボスの言うことにそのまま従っている。
ラトニックにいたっては、トランプに相互関税を国ごとにかけることを進言した張本人である。また、ジョージ・ソロスの弟子とされるベッセントも、3月16日のNBCテレビのインタビューで、株価下落について「これは健全な調整」とし、リセッションの可能性については、「デトックス(解毒)の時期を迎えるだろう」と述べている。
まさに、ボスの言うことをなぞっただけだ。
トランプは自身を「genius(天才)」と言っており、絶対に間違いを認めない。だとすれば、リセッションの中で悲観論が蔓延すれば、これまで株価を引き上げてきたコロナ禍による金融バブルが一気に弾ける可能性がある。
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山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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