村本大輔のニューヨーク劇場 第7回「マイノリティーを責めてはいけない」

日本人と話すと、黒人のことをネガティブに話す人たちによく出会う。「あの地域、黒人が多いから治安が悪いよ」とか「黒人が多い学校は黒人の誇りばかりを教える」とか。そんなとき、僕はいつもアイヌ民族の男友達を思い出す。

北海道が開拓された時から、先住民族であるアイヌの人たちは迫害され、差別をされてきた。彼らからいろんなことを学んだ。彼らは平等に扱ってもらえなかった。人種、性別、機会の不平等は必ず貧困を作る。貧困は教育を受ける機会を奪い、子どもたちは非行に走ったり、大人になってもギャンブル、アルコールに逃げたりする。そしたら、アイヌは酒癖が悪いだの暴れるだのと、噂が広がる。 日本では酒癖の悪い日本人がいても「日本人は酒癖が悪い」とは言われない。「酒癖の悪い人がいる」としか言われない。少数派はいつも属性で呼ばれ、多数派は個人として扱われる。

北海道のアイヌの人たちの間では最近、アメリカの先住民族と交流する会を開いて、ネイティブアメリカンと交流したアイヌの人たちは自信と誇りを再び取り戻すと聞いた。アイヌであることにコンプレックスや劣等感を植え付けられてきた人たちは、自信を持って日本に帰ってくるそうだ。

黒人の話に戻るが、ある実験がアメリカであった。小さな子どもにいろんな肌の色の人たちの絵を見せ、悪い人種は誰？と質問すると子ども達の多くが黒人の絵を選ぶそうだ。黒人の子どもでさえ黒人を選んでしまうと聞いた。アイヌと同じ。周りから自信を奪われる。だからこそ、黒人の多い学校では誇りを教えるのは当たり前だ。しかし、そのことを知らないと「黒人の学校は黒人の誇りばかり教えるらしいよ」となってしまう。

この前、SNSで黒人がアジア人を攻撃してる動画が流れてきた。僕の友達でシカゴで大学の先生をしてる人がいて、彼女は黒人たちの歴史にとても詳しく、黒人の人権を擁護する運動もしている。その彼女が言った。

「モデルマイノリティーって知ってる？ アジア人は『よく働く』『勉強を頑張る』『ルールを守る』っていう理由で、“理想的なマイノリティー”と見られることが多い。でもそれって、他のマイノリティーを責める道具にもなっているのではないかな。たとえば黒人やラテン系に対して、『アジア人はちゃんとやってるのに、あんたたちは努力が足りない』と非難する。そして実際、アジア人自身もその考えに乗っかることがあるように思うわ。『私たちは真面目に働いて、いい学校に行って、白人と同じように成功してる』ってね。でもそれって、白人社会に適応したというより、迎合しているだけなんじゃない？どれだけ頑張っても白人にはなれないのに白人と同じ目線を内側に取り込んで、他のマイノリティーを見下すようになってしまう。こうやってマイノリティー同士を分断して、いちばん得するのは誰？ 白人だよね。差別や暴力に声を上げ対抗することは絶対に必要。でも、それをすぐさま『黒人vsアジア人』みたいな構図にしてしまうのは危ない。その分断こそが、白人の“思うツボ”だから」

この国は生きてるだけで考えさせられる。

Profile：村本大輔

「アメリカでスタンダップコメディーがしたい」と2024年2月に、単身でニューヨークに来たウーマンラッシュアワー・村本大輔（43）。日本のテレビ界を抜け、アメリカのコメディーシーンに魅力を感じ自分を試すため、毎晩コメディークラブに飛び込みオープンマイクを握る。この連載では、そんな彼がニューヨークという劇場を舞台に繰り広げる、一筋縄ではいかずともどこか愛おしいニューライフをつづります。

公式INSTAGRAM
https://www.instagram.com/muramotodaisuke1125/
公式X
https://x.com/WRHMURAMOTO
ドキュメンタリー映画「アイアム・ア・コメディアン」
https://iamacomedian.jp/

過去のエピソード
第1回 「パクチーが、言えない」
第2回 「This is America!」
第3回 「あの日々は夢だった？ 竜宮城（日本）より」
第4回 「にぎやかな街と、僕」
第5回「保険に入っていなくて、病院にかかった」
第6回 「言葉を絵の具のように」