2025年6月4日 NEWS DAILY CONTENTS COLUMN 『夢みたニューヨーク、住んでみたら?』

連載『夢みたニューヨーク、住んでみたら?』Vol.21 忘れかけていた、おもてなしの精神

ニューヨークでの生活では驚きが「スタンダート」と化している。筆者は28歳、この間の夏に憧れのニューヨークにやって来た新参者だ。日本(神戸)で人生の大半を過ごしたせいか、いちいちビックリするようなことが毎日のように起こるので、文化の違いやカオスな出来事を中心にポップにつづっていくことにした。

〜 ニューヨーク vs おもてなしの心 〜

日本のサービス・ホスピタリティ精神は素晴らしい。これには海外に住む日本人だけでなく、世界中の旅行者が日本に訪れると感動して帰る。そんな「お客さまは神さま」の国で生まれ育った筆者が、ニューヨークに移り住むと、そりゃ驚く驚く。「雑すぎ、ドライすぎる!!!」

出先でハサミが必要になり、薬局の文具コーナーを見渡しても見つからない。店員に聞くと「多分文具コーナになる。あ、でもないかもしれない。一回見てみて」・・・無いから聞いてるねん!とあるアパレルチェーン店では、ネットで気になっていたドレスを試着するためにそのアイテムを探すも見つからないので、店員に画像を見せながら「これはどこにある?ネットにはこの店舗に在庫があるって表示されているの」と尋ねると、「今メガネをしていないから見えない」と。オイ。

といったような対応が日常茶飯事のニューヨーク。この街に住んでもうすぐで1年を迎えそうだが、サービス、ホスピタリティ精神においては「期待しない」ことを学び、お客 “さま” の概念を失いつつあった。が、そんな日々が続いていたとき、メキシコきってのリゾート地・カンクンに出張取材に行くことになり、とあるオールインクルシブホテルに泊まることになった。

オールインクルシブホテルというのは館内全てが飲み・食べ放題で、どのレストランやカフェに行ってもメニューに値段がなく、どれを注文しても良いし、施設も自由に使うことができる。プールやビーチに座っていると「何か飲み物はいりますか? マルガリータやピニャコラーダがおすすめですよ」(まだ朝の11時)とウエイターが様子を伺いに来てくれる。ルームサービスでお水のボトルを頼むと、数分後にドアがノックされ、開けるとホテルのスタッフがトレイに水を6本くらい乗せて笑顔で立っている(夜の0時)。

そしてこのオールインクルーシブというのはチップも込みなので、彼らはチップのためにこれらのサービスをしているわけではない(ニューヨークのレストランでひしひしと感じる “チップのためのサービス” を思い出した)。そして親日のスタッフにも数名出会い、「Gracias(グラシアス)」に「ありがとう」が返ってくるシーンもいくつかあった。

なんだか久しぶりに「純粋なおもてなし精神」を受けたことで、心がほくほくと温まっていくのを感じた。ニューヨークで生活をしていると。もちろん素敵なことも星の数ほどあるが、ある程度の「殺伐具合」には慣れないといけなくて・・・。

でも我々日本人のルーツにおいて、やはりおもてなしは大事なパートだ。今回何が書きたかったのかと言うと、日本で育った筆者がニューヨークに約1年住み、メキシコのリゾート地でその心を再確認したということ。ちなみに今これは、メキシコの空港で書いている。ポートオーソリティに降り立っても、この気持ちを忘れないための備忘録として。

筆者のプロフィール

ナガタミユ(Miyu Nagata)エディター/ダンサー

兵庫県出身の27歳。幼少期に観た「コーラスライン」をきっかけに舞台芸術の世界にどっぷりハマって以来、20年以上踊り続けている。また、日本の出版社で編集者として活躍したのち「書いて、踊る編集者」としてさらなる飛躍を遂げるため、2024年8月から拠点をニューヨークに移す。

過去のエピソード

Vol.1 ニューヨーカーは、なぜブックカバーを使わない

Vol.2 居酒屋デートの概念がない街

Vol.3 遅延だらけのサブウェイを乗りこなすコツ

Vol.4 街にあふれるレディファーストな男性たち

Vol.5 アメリカには存在しない便利アイテム

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