スタートアップが日本を超えて海外に挑む、そんな一歩をニューヨークで踏み出した起業家がいる。医療AIスタートアップ「Ubie(ユビー)」の共同創業者・久保恒太さんだ。

Ubieとは、AIによる「症状チェッカー」を開発する企業で、近年日本での医療市場で注目を集めている。そんな日本での成功を背景に、久保さんはなぜ今ニューヨークを選んだのか。そして、その挑戦から私たちは何を学べるのか。
◆ 「挑戦するなら今」ニューヨークで得た確信
久保さんがニューヨークに拠点を移したのは2024年。すでに日本での事業は軌道に乗っていたが、彼の目はさらに広い世界を見据えていた。「悩んでいる時間よりも、一歩でも早く動くことが大事」と語る久保さん。現地での暮らしやビジネスの中で、「アメリカはニッチな分野でも市場規模が桁違い」「合理性が重視され、失敗に寛容」といった文化の違いに確信を持つようになった。
日本では慎重になりがちな起業のステップも、アメリカでは”Try First”の精神が根づいている。久保氏の言葉は、まさに「動けば道が開ける」という起業家のリアルを体現している。
◆ Ubieとは?医療を支えるAIの力
冒頭でも少し触れたが、久保さんが手がけるUbieは、AIを活用した「症状チェッカー」の開発と運用を中心とするスタートアップ。ユーザーが体の不調を入力すると、AIが質問を重ねながら可能性のある疾患を特定し、必要な医療機関への受診をナビゲートする。

この技術は特に「希少疾患」や「診断のつきにくい症状」に強みを持ち、医療機関や製薬企業にとって、潜在的な患者の早期発見につながるツールとして注目されている。製薬企業はUbieのプラットフォームを通じて、治療対象となる患者層の診断機会を広げることができる。
さらに日本の医療機関向けに、診療前の問診自動化や業務効率化を図るソリューションも展開しており、これにより医師や看護師の負担を軽減し、医療の質と生産性を両立させる支援も行っている。

◆ なぜニューヨークなのか
医療系スタートアップにとって、拠点選びは重要な決断だ。Ubieが扱う「症状チェッカー」は、主に製薬企業を顧客としており、その多くがニュージャージー州やニューヨーク周辺に集積している。加えて、優秀なテック人材が集まりやすく、パートナー候補の企業とも地理的に近い。
「西海岸と迷いましたが、我々のビジネスモデルには東海岸の方が合っていた」と久保さん。結果として、医療、広告、技術の交差点にあるニューヨークは、Ubieの海外展開の第一歩に最適だったという。
「アメリカでやるのは難しいよ」「まずは日本で結果を出してからでは?」久保さん自身もかつて、そういったアドバイスを何度も受けたというが彼は、そうした常識に疑問を持った。「考えている間に、アメリカではすでに動いている人がいる」と話しており、自らの挑戦が「日本にいる誰かの背中を押すきっかけになれば嬉しい」と語る。
◆ 久保さんが描く未来とは?
Ubieが目指すのは、医師や看護師のリソース不足という世界的課題の解決だ。AIによる診療支援や症状チェック技術を通じて、医療の効率化、アクセス向上を図る。特にアメリカでは医療費が高騰し、人手不足も深刻。そこにこそ、AIが活躍する余地がある。
「将来的には、医療体験そのものをアップデートしたい」と久保氏は語る。Ubieは症状チェックにとどまらず、AIによる問診、患者教育、治療提案までを統合したプラットフォームへと進化を目指している。
Profile:久保恒太さん
京都大学工学部(工業化学科)、東京大学大学院(工学系研究科)を卒業後、「テクノロジーで人々を適切な医療に案内する」をビジョンに掲げ、2017年に医師の阿部吉倫さんとUbieを共同創業。現在はニューヨーク拠点の米国子会社と東京本社を行き来しながら事業を統括している。
取材・文/ナガタミユ
写真/久保恒太さん提供
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