2025年10月24日 COLUMN 津山恵子のニューヨーク・リポート

津山恵子のニューヨーク・リポートVol.64 「内戦」状態に突入、移民取締でNY市内にも波及、LA、シカゴは深刻

ニューヨークで10万人超が参加した「No Kings(王はいらない)」デモは、平和的でむしろカーニバルのようだった。主催者が準備したプラカードはほとんど見られず、市民が段ボールや画用紙に独創的なメッセージを書き込んだ。恐竜やユニコーン、宇宙人などのコスチューム着て「(トランプ米大統領は)自分たちの王ではない」と訴える人も目立った。

18日、タイムズ・スクエア、手製プラカードのうねりで埋め尽くされたNo Kingsデモ
(photo: Keiko Tsuyama)

10月14日、全米約500万人が参加した今回のデモは、トランプ氏が今年1月に大統領就任して以来、最も緊迫した状況の最中に開かれた。トランプ氏は先立って、ワシントンDC、ロサンゼルスやシカゴ、ポートランドなどに軍事組織である州兵の派遣を発表。連邦職員であり、不法移民の摘発を攻撃的に進める米税関移民取締局(ICE)の捜査を擁護するためで、一般市民を捜索するためではないというのが理由だ。

平時は、各州知事の指揮下にあり、災害時などに稼働されるのが州兵だが、州知事の頭ごなしに大統領が派遣することに大きな反発が起きた。政権が派遣を計画し発表した州は、DCを含めて10州を超える。DCではすでにダウンタウンで州兵が活動し、シカゴへの派遣も報道されている。

このほか、ICEが黒人やヒスパニック系が多く集まるエリアやモールの駐車場に出没。令状も示さずに壁や地面に市民を組み倒し連れ去っていくICEには、全米各地で反対運動が起きている。ロサンゼルス、シカゴなどではデモ参加者の逮捕が確認された。デモの混乱を鎮めるために駆けつけた地元警察官が催涙ガスに巻き込まれてもいる。

とうとうニューヨーク市内でも21日、チャイナタウンでICEがアフリカ系を連れ去り、夕方には反対デモが起きた。覆面したICE取締官は、黒人らを壁や車に押し付けて手錠をかけ、バンに乗せて消え去った。容疑者らは、歩道で偽物ブランド品を観光客に売る違法行為を繰り返していたとする。しかし、アメリカに不法滞在をしていた人々なのかどうかは不明だ。

チャイナタウンの偽物売りは過去から存在していた。ニューヨーク市警(NYPD)所轄署も半ば持ちつ持たれつという関係を保ち、パンデミックの後に歩道に彼らが現れた時はチャイナタウンが「戻ってきた」という声すら聞かれた。

ニューヨークを含めた大都市は、不法滞在者も含め、移民がいなければ経済が成り立たない。さらに不法滞在者を排除したら、UberEatsやレストランのキッチン、スーパーマーケットの倉庫、富裕層の庭師やクリーナーなどがいなくなる。

しかし、全米でのICEの捜査は今後長く続くだろう。カーニバル的なデモで「表現の自由」を行使しても、多くの移民の権利が侵害され続けるのは避けられない。当局とデモの衝突は増え、真の「内戦」状態に突入したといえる。(取材、写真、文 津山恵子)

津山恵子 プロフィール
ジャーナリスト。専修大文学部「ウェブジャーナリズム論」講師。ザッカーバーグ・フェイスブックCEOやマララさんに単独インタビューし、アエラなどに執筆。共編著に「現代アメリカ政治とメディア」。長崎市平和特派員。元共同通信社記者。

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