2025年11月29日 NEWS DAILY CONTENTS

「アメリカでの認知度はまだまだ」日本が誇る航空会社ANA、どう世界へ挑んでいく?

ANAがニューヨーク・コミコンに出店したブース

日本では誰もが知る空の顔でも、アメリカでは「ANAって何の略?」から始まる。インバウンドが過去最高を更新し、日本ブームが広がる今こそ、ANAは米国で存在感を強めに行く。今回は、米州室長 兼 ニューヨーク支店長・鈴木大輔さんにインタビューを行い、同社のアメリカでの戦い方について話を聞いた。

ANAの米州室長 兼 ニューヨーク支店長・鈴木大輔さん

◆ 「日本の航空会社です」

同社はアメリカでの知名度がまだ低く、「All Nippon Airways」という正式名称もあまり浸透していないという。「アメリカでの認知度はまだまだなので、最初の一言は『日本の航空会社です』という説明から始まって、そこからようやくサービスや強みの話に進むんです」と鈴木さんは語る。

ビジネスクラスの座席(photo: ANA提供)

だが認知度とは反対に、評価は高い。機内に足を踏み入れた瞬間から続く清らかな安心感、丁寧な食事、勉強量のにじむキャビンクルーなど、「乗れば分かる」日本の品質が高く評価されている。つい先日も、アメリカを拠点とする航空業界団体 Air Transport World(ATW)の「2025 Airline of the Year(年間航空会社賞)」を受賞したばかり。アジアの航空会社としては最多受賞を誇る。

◆ 日本ファンを増やす、文化を通じたアプローチ

「良さは体験すれば伝わる。問題はそこまでどう連れていくかなんです」と鈴木さん。アメリカ市場で同社がまず打ち出すのは、日本らしさそのもの。

「社内一丸となって、日本を感じてもらう場をつくっています。ANAは運ぶだけじゃなく、体験を届ける会社なんです。体験すれば、必ず好きになってもらえるので」

ANAがニューヨーク・コミコンに出店したブース(photo: ANA提供)

とはいえ、全米に向けて一気に知名度を上げるのは非効率だ。狙うのは、日本文化に関心の高い層へのピンポイントなアプローチ。全米で熱が高まり続けるコミコンをはじめとしたアニメイベントや旅行博など、日本好きが集うイベントに出展し、ファンの聖地でANAを自然に刷り込む。

ニューヨーク・コミコンにて(photo: ANA提供)

「特に若い世代にも日本を体験として届けたい。ANAは『空飛ぶ日本体験』の入口でありたいといつも考えています。日本への関心の高まりは追い風です。ただ、『日本に行きたい』と『ANA』を選ぶ”の間には距離がある。その距離を詰めるのが、僕らの仕事なんです」

◆ 他のアメリカの航空会社との違いは?

ちなみに、競合となる他社のアメリカの航空会社との違いについては、「米系航空会社はプレトラベル体験に強い」と鈴木さんは分析。アプリの完成度、チェックインのスムーズさ、通知の速さなどデジタルの使い勝手には学ぶ点が多いという。だが、そこを「乗った後の体験」「日本人のサービス力」で勝負しているという。

長時間フライトでも快適に過ごせる工夫が凝らされている(photo: ANA提供)

「搭乗から到着までのサービスの力で差をつける。13〜14時間の長距離フライトは、単なる移動ではなく旅の一部。食事やワイン、声かけ、静けさなど、そこにANAの価値があると思います」

華美なサービスには走らず、乗客が “ほどよく放っておかれる” 時間をデザインする。日本的な余白が、長距離線の満足度を底上げする。

◆ ターミナル刷新でさらなる期待も

現在、ニューヨークの玄関口でもあるジョン・F・ケネディ国際空港(JFK)では、ANAが移転予定となる第6ターミナルの刷新が進んでいる。第5ターミナルと接続すれば、アメリカで主流の格安航空会社ジェットブルー経由での乗り継ぎがスムーズになるほか、ターミナル内のショップやグルメも進化を遂げる予定だ。

「これでボストンなど北東部へのアクセスが一気に良くなります。ニューヨーク発が使いやすいと感じる人が確実に増えると予想しています」

日本を代表する航空会社のひとつANA(photo: ANA提供)

また、旅客機という「表の顔」だけでなく、モノを運ぶ「裏の顔」としても大きな意義を担っている同社。今年8月には日本貨物航空(NCA)の完全子会社化が完了。大型貨物機と国際ネットワークがANAグループに統合され、米州全体の物流網が「もうひとつのANA」として動き出した。

「これはすごく大きな一歩です。大型貨物機が入ったことで、物流の流れを丸ごと設計できるようになった。表には出ませんが、実はANAの屋台骨を支えているのがこの部分なんです」

「半導体装置、医薬品、生鮮食品など、貨物はなかなかスポットライトが当たりませんが、ANAは世界の裏側を運んでいる」と鈴木さんは言う。

◆ 「知られていないことは、伸びしろの証拠」

国内ではANAといえば国を代表する航空会社。しかしアメリカでは、まだスタートラインに立ったばかり。「知られていないことは、伸びしろの証拠なんです。体験の入口に立ってもらえれば、ANAは絶対に負けない」

言葉は柔らかいが、積み重ねた現場の重みがにじむ鈴木さんへのインタビュー。日本の当たり前を、世界の基準に変えるまで、ANAの挑戦は続く。

取材・文・写真/ナガタミユ

                       
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