駐在帯同者のキャリアについて考えるシリーズ。今回は、インドでの駐在帯同を経て現在は、
ニューヨーク駐在帯同2年目、小学生のお子さんを育てるマリナさんに話を聞いた。
海外帯同は、キャリアの「中断」と捉えられることも少なくない。しかしマリナさんは、1回目のインド駐在帯同中に出会ったエコバッグをきっかけに、「自分で仕事をつくる」という選択肢を見つけた。帰国後に起業し、現在はニューヨークで家族との時間を大切にしながら事業の海外展開に取り組んでいる。2度の海外帯同を転機へと変えてきた、その歩みを聞いた。

「場所にとらわれない働き方」
モデルケース マリナさん(30代)
——起業する前のキャリアは?
新卒で入った教育系の会社も好きでしたが、もともと「3年働いたら海外に出よう」と決めていました。大学時代から教育や貧困問題、女性支援に関心があり留学先は南アフリカを選びました。

南アフリカでは語学学校に通いながらNPOでインターンを経験しました。帰国後は外資系企業でマーケティング職に就きました。また、継続して南アフリカで活動する日本のNPO「SAPESI-Japan」に携わっており、これはライフワークとして考えています。
——その後、結婚・出産を経て、配偶者のインド赴任に帯同されました。キャリアを中断することへの不安はありましたか?
ちょうどコロナ禍の真っただ中で、最初はキャリアのことを考える余裕はありませんでした。
でも、少しずつ知り合いが増えていきました。海外生活は一見華やかに見えるかもしれませんが、実際には大変なことも多いです。だからこそ、日本人同士で日々の小さな悩みや困りごとを共有でき、とても助けられました。
——インドでの経験が、現在の事業につながったそうですね。
インドで出会ったエコバッグが、今の事業の原点です。
インドでの生活が少し落ち着いてきた頃、日本人の友人からエコバッグをプレゼントしていただきました。インドの伝統衣装であるサリーをアップサイクルして作られたバッグで、色鮮やかで、美しくて一目で気に入りました。さらに、作っているのがスラム街出身の女性たちで、女性支援や雇用にもつながっていると知りました。
その翌週には“I was a Sari”というブランドのファウンダーに会いに行き「コンセプトも商品も素晴らしいので、日本でぜひ展開したい。私にやらせてください」と伝えました。
「少しでも興味を持ったものがあったら、動いてみる」
振り返ると、この時もそうだったのだと思います。気になったらまず会いに行ってみる。その一歩が、今の仕事につながっています。

今振り返ると、自分でも行動が早かったと思います。でも、そのくらい強く心を動かされた出会いでした。その時点でビジネス経験は全くありませんでしたし、もちろん不安もありました。
インドでエコバッグに出会ったことで、「自分で仕事をつくる」という選択肢を本気で考えるようになりました。夫の海外赴任に帯同中ではありましたが、それを自分にとってのチャンスに変えたいという思いがあったのかもしれません。
実際に起業したのは、日本に帰国してからでした。最初は小さく始めましたが、続けていくうちに、これは自分のライフワークに近いものだと感じるようになりました。
——現在の事業について教えてください。
現在は、エシカリージャパン合同会社を運営しています。サステナブル製品の企画、輸出入やコンサルティングを行っています。
自社ブランド“never leather”は、廃棄されるココナッツウォーターから生まれた植物由来の素材を使ったブランドです。名刺入れやコースターなどを制作しています。

もともとはインドで出会った素材でした。ココナッツウォーターを発酵させ、シート状にして、レザーのような素材にするものです。動物性素材でもなく、石油由来の合皮でもない選択肢として可能性を感じました。
インドでは、革をなめす産業が一大産業になっている地域がありますが、労働環境としては危険であったり劣悪だったりすることも少なくありません。安価な皮革製品の裏側に、動物だけでなく、人の命や安全が脅かされていることを知りました。それなら、自然由来の素材で環境や人に配慮したものを作れないかと思ったんです。
——海外帯同を見据えて、起業された部分はありますか?
影響はあったと思います。夫の仕事の関係で、また海外に行く可能性があることは分かっていたので、最初から「場所に縛られない働き方」は意識していました。
自分がやりたいことを続けるために、最も適していた形が起業だったのだと思います。これまでの経験を通して、私にとって起業は突然の選択ではなく、自然な流れでした。
——起業後、再び海外帯同となります。ニューヨークへの赴任が決まった時は、どのような気持ちでしたか?
せっかく起業し、自分の仕事が軌道に乗り始めたタイミングだったので、環境が変わることへの不安は大きかったです。日本で積み上げてきた事業や取引先との関係に加え、採択されていた女性起業家向けのアクセラレータープログラムなど、楽しみにしていた機会を断念しなければならないこともありました。

でも、結果的にニューヨークに来たことをきっかけに、日本やインドの仲間と連携して仕事を進める機会が増えました。私一人では気づけなかったアイデアや提案をもらえることも多く、改めて心強い仲間に支えられていると感じています。
——海外帯同中でも仕事を続けるために、どのような工夫をしていますか?
一つは、できるだけ仕事をオンライン化することです。場所を問わずできる業務は自分で行い、現地にいないとできないことは信頼できる仲間たちに助けられています。
もう一つは、完璧を目指しすぎないことです。海外生活では、予定通りにいかないことがたくさんあります。全部を完璧にやろうとすると続きません。「みんなが元気で生活できていれば満点」そう思っています。
——ニューヨークの印象は?
言葉の壁があり、大なり小なり苦労することはあります。失敗や恥ずかしさもありますが、
ニューヨークは起業家やクリエイターも多く、刺激的です。今は、ニューヨークだからこそできることに挑戦しながら、事業を次のステージに進めたいと思っています。

また、日常が刺激的だからこそ、家族との普通の日々も大切にしたいです。ニューヨークもそうですがアメリカは、こちらが受け身だと何も得られない場所だと感じています。逆に、自分から一歩踏み出すと、反応が返ってくる街でもあります。
——平日のルーティンを教えてください。
平日は、子どもをスクールバスに乗せた後、午前9時から午後3時までを仕事の時間に充てています。子どもが帰宅してから夜までは、基本的に家族の時間です。そして、子どもが寝た後、9時から11時くらいまでまた仕事をしますが、時間管理はとてもフレキシブルです。
子どもが寝たあと、21時から23時くらいまでまた仕事をしますが、時間管理はとてもフレキシブルです。
最低限これをやる、ということだけ決めて、あとはその日の状況に合わせています。家族との時間は、意識して確保しないとすぐ仕事に飲み込まれてしまいます。なので、夕方以降はできるだけ子どもとの時間を優先しています。
——息子さんは、お母さんが起業していることをどのように見ていますか。
息子は、物心ついた頃から私が仕事をしている姿を見て育っています。子どもにとっては「ママはそういうもの」という感覚なのかもしれません。
先日、ニューヨークの「Grand Bazaar NYC」で、息子がクラスメートと一緒にお店を出しました。子どもが店長になって、自分たちで売るものを準備し、マーケットで販売するという企画です。

実際に物を売る難しさや、お金をいただくことの意味を、子どもなりに感じたのではないかと思います。
私は特別に何かを教えたつもりはありません。でも、自分で考えて行動すること、新しいことに挑戦することは、少し伝わっているのかもしれません。
会社員として働く父親の姿も、起業して働く母親の姿も、どちらも自然な選択肢として見てもらえたらうれしいです。
——今後挑戦したいことを教えてください。
自社ブランドnever leatherを、日本だけでなくアメリカやヨーロッパにも広げていきたいです。先日、ブルックリンにオープンしたPizza 4P’sに、never leatherのコースターを導入していただいています。
インドで生まれた素材を、日本の職人の技術で形にし、さらにニューヨークから世界へ届ける。その流れをもっと広げていきたいと思っています。
——最後に、海外帯同中のキャリアについて悩んでいる方へメッセージをお願いします。
海外帯同中は、自分のキャリアや社会での役割が見えにくくなることがよくあります。でも、無理に答えを出さなくてもいいのではないでしょうか。まずは自分と家族が元気に過ごせれば、それで十分。
そのうえで、少しでも興味があるものは、小さく試してみる。人に会う、学び直す、発信してみる。そうした一つ一つの行動が、後から思いがけない形で仕事や生き方につながります。
自分の中の違和感や関心事を大切にしてほしいなと思います。これは、常に自分へのメッセージでもあります。
取材・文/藤原ミナ
写真/本人提供
















