1月20日、いよいよバイデン政権がスタートします。(この記事の初出は1月19日)日本での注目は、やはり、アメリカの対中政策がどうなるかでしょう。というのも、菅義偉首相には確固たる外交ポリシーがなく、「中国観」などゼロに等しいからです。コロナ対策と同じく、右往左往するだけでは、日本は中国の拡張政策に翻弄されるだけです。
欧州の中国観も大きく変化するなか、今後の日本の行方が懸念されます。
毎回「強い懸念」表明だけで様子見か?
まずはっきりしているのは、今後の日本はできる限り「中国依存」をやめ、経済的には「中国抜きの経済成長」を目指さなければならないということだろう。経済は中国、安全保障はアメリカというような愚かな「二股政策」は、続かないということだ。
ところが、菅政権は、いまだに中国に対してはなんの外交的メッセージも発信していない。というか、日和見を決め込んでいる。どうしていいかわからないから、バイデン新政権の出方を待っているのだろう。
政府内からは、バイデン政権発足後、できるだけ早い時期に“ワシントン詣で”をすべきいう声が聞こえてくるが、本人は外交コンプレックの塊のため、二の足を踏んでいる。なにしろ、この首相は、ASEANをアルゼンチンと言い間違える能力しか持っていない。それに、単にご挨拶程度では、アメリカ大統領も困るというものだ。
もし、バイデン政権がトランプ政権をそのまま継承して、中国との覇権戦争を継続させるなら、当然、わが国としても、アメリカ側に立って、「対中包囲網」を強めなければならない。尖閣諸島を奪われようとしているのだから、安全保障面では中国に対する強いメッセージが必要だ。
それなのに、香港で行われている民主派弾圧に対しては、毎回「強い懸念」を表明するだけ。欧米諸国が、断固たる「非難」声明を出しているのに比べると、まったく腰が引けている。菅首相は、香港情勢と尖閣問題がリンクしていることがわかっていないようだ。
中国外相に対して面と向かってもの言えず
昨年11月、中国の王穀(ワン・イー)外相が来日したときも、日本の対応は最悪だった。王穀の来日目的は、日中の経済協力の強化にあるのは間違いないが、アメリカとの覇権戦争が激化するなかで日本を完全にアメリカ側に行かせないこと、さらに延期された習主席(シー・ジーピン)の来日について仕切り直しすることだった。
そんななか、日中外相会議後の記者会見で、王穀は尖閣諸島問題に言及し、「一部の正体不明の日本漁船が頻繁に釣魚島(中国名)周辺の敏感な海域に入っている」として日本を非難し、中国の領有権を主張した。ところが、これに対して茂木敏充外相は一言も反論せず、ニコニコしただけ。しかも、会見後に肘タッグの「新常態の握手」をして、最後に「謝々」と言ったのである。
これには、国民が怒った。ネットは非難の嵐となった。それで、茂木は取材に対して、記者会見後には王に対して「わが国の立場、考え方を改めて強調した」と述べ、ちゃんと反論したのだと弁解した。しかし、これは嘘かもしれない。あとでなにを言おうと、表の舞台でメッセージを出さない限り、外交的には相手にされない。
(つづく)

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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