連載513 山田順の「週刊:未来地図」日本政府は半導体パニックを軽視 台湾歓迎で自動車産業まで衰退の危機に!(中1)
火災続きで国内はダメ、海外も受け入れ余地なし
すでにビジネスメディアで周知のことと思うが、日本ほど、世界の半導体供給不足でパニックに陥っている国はない。なぜなら、今回のルネサンスの火災以前にも、予期しないアクシデントが次々に起こったからだ。
2020年7月、日東紡の福島第2工場(福島県福島市)で火災が起こり、半導体のプリント配線基板に用いられる特殊なグラスファイバーの供給が止まった。
2020年10月、今度は、旭化成マイクロデバイスの延岡工場(宮崎県延岡市)で火災が起こった。
この工場では、主に音響関連や自動車のセンサーに使う「LSI」(Large-Scale Integration:大規模集積回路)を製造していたので、自動車メーカーはカーオーディオなどの組み込みができなくなってしまった。いまだに、この工場は操業を再開できずにいる。
ルネサスの那珂工場の火災の話に戻ると、ここで生産される300ミリメートルのマイコンは、ほかの工場では代替生産ができない。300ミリメートルの生産ラインは那珂工場にしかないからだ。少量多品種向けの200ミリメートルの生産ラインはあるが、ここは火災で止まった旭化成の半導体工場の代替生産などを行っていて、穴埋めは難しい。
となると、日本の自動車メーカーは、これまで以上に海外のファウンドリから調達しなければならないが、前記したようにテキサスはほぼ壊滅状態であるし、世界最大のファウンドリである台湾の「TSMC」Taiwan Semiconductor Manufacturing Company, Ltd:台湾積体電路製造)は、PCやスマホ向けの生産でフル稼働していて、クルマ向けの増産を受け入れる余地がない。
つまり、日本の自動車メーカーは、現在、クルマをつくりたくても、必要な台数をつくれなくなってしまったのである。
クルマはいまや「走るコンピュータ」
いまや、クルマは半導体なくしては成り立たない。
そもそも半導体というのは、条件によって電気を通す状態(導体)と、通さない状態(不導体)に変化する物質(シリコン)で、信号によって切り替えることができる。この信号による切り替えがコンピュータを動かすためには必要だから、半導体は自動車ばかりか、飛行機、鉄道、家電、産業機器など、ほぼすべての工業製品に欠かせないものとなっている。
クルマは、いまやコンピュータ制御の端末(デバイス)と化している。「走るコンピュータ」と言っても過言ではない。
クルマは数万点に及ぶ部品で構成されているが、そのなかにはさまざまな稼働装置が含まれ、例えば、エンジンへの燃料噴射装置、自動変速機、カーナビなどの衛星測位システムなどがある。これらを個別に制御するのが、車載半導体、すなわちマイコンである。
供給不足パニックは、この先1年は続く
クルマに搭載されるマイコンの数、量は、近年増加の一途で、普通車で30個くらい、高級車になると80個も使われている。今後、電気自動車(EV)への移行が進むにつれて、クルマは本当にコンピュータ端末になり、ネットに接続される。となれば、半導体はますます必要になる。
そのため、現在、半導体は、自動車メーカーや電機メーカー、ハイテク企業などの間で奪い合いになっている。しかも半導体は、発注から納品までに1年は要する。つまり、現在の半導体の供給不足パニックは、この先、少なくとも1年は続くと見て間違いない。
半導体の供給不足を受けて、台湾TSMCは、2021年の設備投資予算を280億ドルまで増額した。新工場の建設にも着手した。しかし、新しい半導体生産施設が稼働を開始するまでには、少なく見積もっても5年はかかるという。
(つづく)
この続きは4月15日(木)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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