株価は永遠に上がり続けるのか? いま蘇る「大恐慌」の教訓(下2)
株価低迷を決定づけた関税法案の成立
1930年になると、NYダウは大幅に値を戻した。
一時は200ドルを割ったというのに、4月17日には294.07ドルと300ドル目前まで上昇した。
これは、関税法案が廃案になるという観測が流れたからである。アメリカの動きを知った欧州諸国などが、圧力をかけてきたのだ。アメリカの関税引き上げに対して、34カ国が正式に反対を表明した。イタリアのムッソリーニ首相は、オリーブオイルの関税引き上げを知って激昂した。
ところが、6月に入ると、賛成の動きが強まり、13日に上院で可決されると、15日にはフーバー大統領が承認の意向を表明したのである。こうして、6月16日の月曜、株価は急落した。NYダウの終値は前週末比で7.87%下落し、230.05ドルとなった。
現在、コロナ禍のせいか、資本主義、とくに新自由主義への批判が高まっている。米中の間で行われた関税報復合戦、その後のコロナ禍による国際貿易の停滞を見ると、世界が株価バブル崩壊に向かっているように見えて仕方ない。
積極財政で政府歳出を42%も増やした
大恐慌を予測できた専門家は、ほとんどいない。数えられるほどだ。その一人は、のちにノーベル経済学賞を受賞するフリードリヒ・ハイエクである。彼は、1929年初め、所長を務めていたオーストリア景気研究所の月報に発表したいくつかの論文で、アメリカの景気が数カ月以内に崩壊するだろうと警告した。
このハイエクを中心とする「オーストリア学派」と呼ばれる経済学者たちの視点で書かれたのが、先に紹介した『学校で教えない大恐慌・ニューディール』である。
この本と同じく先に紹介した『アメリカ大恐慌「忘れられた人々」の物語』(上)(下)から、フーバーが不況対策として行ったことを見てみると、それは、明らかな教科書的ケインジアンの景気刺激策だ。
フーバーは、就任後の最初の2年間で、政府歳出を42%も増やしている。積極的に財政出動して、公共事業を増やし、失業者を救済しようとしたのだ。
フーバーは大暴落の翌月の11月から、州知事全員に電報を打ち、州の公共事業を増やすよう要請している。また、ホワイトハウスに鉄道会社の社長らを集め、建設・改修投資の続行と拡大を要請した。これを受けて、鉄道会社側は10億ドルの支出計画を発表した。
(つづく)
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※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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