連載941 ゼロコロナ失敗で中国経済大減速! どうなる?「米中対立」と「中国デカップリング」 (完)
デカップリングは今後じわじわ効いてくる
それでも、アメリカが主導する以上、「脱中国」は、じわじわ進み、デカップリングは達成されていくと見られている。
とくにハイテク分野では、そうなるだろう。
たとえば、最初にアメリカの制裁措置に狙い撃ちにされた「華為技術」(ファーウェイ)は、いまやハイテク企業とは言えなくなった。昨年は、売上高で過去最悪の減収を記録している。というのは、もっとも収益性の高いスマートフォン事業を諦めざるをえなくなり、アメリカによる輸出規制の対象にならない程度の半導体や技術を用いた製品で稼ぐほかなくなったからだ。
現在、アメリカ商務省の「エンティティー・リスト」(取引制限リスト)に、は約600の中国企業が登録されている。リストにある企業は、アメリカ企業はもとより、西側の他の企業とも取引できない。
モノやサービスのデカップリングとともに、世界の金融システム、つまりドル経済圏から中国を排除する動きも、今後出てくる可能性がある。
そのため、中国は人民元を国際化し、人民元を基軸とした代替的なシステムを築こうとしている。しかし、こうした人民元ネットワークにどれだけの国が参加するだろうか?
先だって、習近平主席はサウジアラビアを訪れ、石油取引の人民元決済を実現させた。これは画期的なことだが、産油国以外で人民元取引を受け入れる国がどれほどあるだろうか?
「脱中国」企業数増加、その理由とは?
実際のところ、「脱中国」はじょじょにだが進んでいる。コロナ禍がそれを推進させたのは言うまでもない。
帝国データバンクは、今年の7月に『進む「脱中国」 中国進出の日本企業、コロナ前から減少 過去10年で最少にロックダウンの上海は200社超が撤退』として、日本企業の「中国進出」動向調査の結果を公表している。
それによると、日本企業の中国進出数は減少傾向が進むなかで、撤退する企業数も増えている。日本企業が6000社以上進出している上海では、この2年ほどで200社超が撤退したという。
撤退理由は、コロナ禍によるロックダウンの影響もあるが、人件費の上昇や環境規制強化などで「製造基地」「輸出基地」としての魅力が乏しくなったことが大きいという。中国政府による国家安全に関わる戦略物資の輸出を規制する輸出管理法、データ管理を強化するデータセキュリティー法の施行などが大きく影響している。
「脱中国」というより、中国の拠点をそのままにしつつ、ベトナムなどの東南アジア諸国に工場をつくる企業も多い。たとえば、スーツの青山商事は、インドネシアに工場を建設し、中国1国依存から脱却した。同じように、ナイキはスニーカーの生産を中国からベトナムとインドネシアに移管した。
とりあえず来年は「楽観論」で5%成長
このように見てきて結論を述べると、中国経済はもはやかつての高度成長を取り戻すことはありえないと言える。ただし、いきなりは衰退しない。
今後、しばらくは「世界の工場」としての地位は維持し、経済成長は続けるが、それはかつてのような高度成長ではない。そうしたなかで、米中対立(新冷戦)とデカップリングが進むので、まずはハイテク分野での競争力を失うはずだ。それが、はたして経済全体にどう影響してくるかはわからないが、数年以内に、日本のように低成長、経済低迷に陥るだろう。
現在、中国は最終消費財だけでなく、中間財も数多く輸出している。紛うことのない世界最大の輸出大国である。この輸出が伸びなければ、経済成長はありえない。
ただいま言えることは、世界の製造業は中国なしでは成り立たないが、中国の製造業も世界なしでは成り立たないということで、この状況は早急には変わらないということだ。
年末にきて、来年の中国の経済成長率予測が出揃った。まず、中国国務院のシンクタンクの中国社会科学院は、公表した『経済青書-2023年中国経済情勢分析と予測』で、5.1%前後と予測している。
UBSは、2022年10?12月四半期を2.7%に下方修正したものの、来年は4.9%とした。 IMFは、すでに10月時点で成長率予測を公表しており、それは4.4%である。
また、ADB(アジア開発銀行)は4.3%、ゴールドマン・サックスは4.5%と予想している。
はたして、ゼロコロナ転換の混乱の行方はどうなるのか? いずれにしても、楽観論に立てば、中国経済はまだ成長を続ける。危ないのは、米中の板挟みになっている日本のほうである。
(了)
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山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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