連載1030 食料危機は本当なのか? 食料自給率38%を煽る日本政府の欺瞞 (完)
(この記事の初出は2023年5月30日)
世界でも低い食料自給率38%のカラクリ
日本の食料自給率が低い理由は、それが、農水省によって人為的つくられた数字だからだ。自給率を計算するのに、「額」「量」「カロリー」のどれを用いるかで数値は変わるが、基本的にはどれも分子が「国産」で分母が「国産+輸入」である。とすると、「輸入」が多くなればなるほど、自給率は小さくなる。
つまり、食料をほとんど輸入しなければ100%に近づくわけで、北朝鮮が100%に近いのはこのためだ。北朝鮮には食料を輸入する資金、経済力がないから、100%に近くなるのだ。
逆に日本の自給率が低いのは、食料を輸入できる資金、経済力があるためで、北朝鮮より自給率が低いからと言って、それが問題化されるのはおかしい。
いざというときに、国民が飢えない食料生産が可能かどうか、つまり「自給率」ではなく「自給力(潜在的)」があるかどうかが問題なのだ。この点で、日本はかなり高いほうと言っていい。
「減反」政策により自ら自給率を引き下げ
最後に、日本の食料自給率は、政府によってわざと低くされているということを指摘しておきたい。
1960年に、日本の食料自給率は79%あった。そして、その6割を米が占めていた。しかし、政府与党は、農家の票を維持するために「減反(生産減少)」政策を行い、米の生産を抑制してきた。
この国民にとってはまったく意味のない政策により、JA(農協)は利益を確保し、農林族議員は安泰となったが、食料自給率は下がり続けたのである。現在にいたるまで、日本の米の生産量は減り続けているが、それは、減反すれば補助金がもらえるという政策のせいである。
こんなバカなことをやっている国は、世界のどこにもない。
もし政府がいまの減反政策を廃止すれば、米の生産は飛躍的に増大し、食料自給率は跳ね上がる。また、地球温暖化により、日本でも同じ場所で同じ作物を1年に2回栽培し収穫する「二期作」も実現できるかもしれない。
日本は、このように、いざとなれば食料危機を十分に回避できる潜在力があるのだ。
しかし、その「いざ」が地球温暖化による食料危機なら、私たちは食生活を変えなければならない。そうならないためにすべきことは、一つしかない。
もう本気で、気候変動、地球温暖化対策を進めることだ。CO2を正味ゼロにするカーボンニュートラル (脱炭素)社会をいち早く実現させる必要がある。
(了)
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山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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