時を得たりと「裏金」「政治とカネ」の大報道
しかし日本はなにも変わらないだろう (下)
(この記事の初出は2023年12月19日)
ロッキード事件、リクルート事件の構造
「政治とカネ」の問題をさかのぼると、1976年の「総理大臣の犯罪」と言われた「ロッキード事件」と、1988年の「リクルート事件」が必ず取り上げられる。
ロッキード事件では、当時の旅客機トライスターの売り込みに、ロッキード社が日本の政府関係者に賄賂を渡していたことが発覚し、総理の田中角栄まで捜査の手が伸びて逮捕されたのである。角栄の政治は「金権政治」と言われ、まさにカネと権力が一体化していた。
アメリカはこの日本政治、日本社会の構造をよく理解していたので、カネを惜しまなかったのである。
リクルート事件も同じだ。リクルートの社長、江副浩正は、当時の竹下登首相のほか、中曽根康弘前首相、宮澤喜一蔵相ら多くの大物政治家に未公開株をプレゼントした。店頭公開で値上がりが確実だから賄賂である。つまり、江副もまた、日本社会のしきたり、構造を理解していたのである。
日本人は一般的に、自分たちの「民度」は高いと思っていて、裏金や賄賂が横行するのは後進国だと思っている。実際、私の知人はタイで人身事故を起こしたが、警官にカネを渡して見逃してもらった。私自身もフィリピンで、昔のことだが、空港で通関を早くしてもらうために係官にカネを渡した。
最近でも、ベトナムで起業した若い知人は、官僚にカネを渡して手続き等の便宜を図ってもらっている。そうしないと、何カ月も待たされる。
結局、日本も同じ。いまだにそうなのである。
日本社会はダブルスタンダードで成り立つ
表向きは「公平さ」が確保された社会だが、渡る世間はコネとカネ次第という、「ダブルスタンダード」が日本社会である。公平さは法律で厳しく規定され、贈収賄は重罪となっているが、その一方で、贈り物、付け届けのような社会慣習が重視され、暗黙のうちに続いてきている。
「忖度」などと言っても、それは実質的な便宜を伴っている。森友学園事件で言えば、国有地払い下げで安倍首相(当時)の名前が出れば、財務省などの官僚が業者に有利な手続きを無条件で実行した。法は関係ない。
最近では、露骨な賄賂を贈った事件が発覚している。IR法案でカジノ解禁を有利に進めるために、中国企業が秋元司衆院議員(当時)にカネを渡していたのである。贈収賄の本家である中国も、日本が同じ穴のムジナとよく知っていたのだ。
話を庶民生活に戻すと、たとえば、子供が有名校に進学するとき、あるいは就職するとき、なんらかのことを親がしている例はいくらでもある。お稽古事でも発表会がありパーティがあり、パーティ券がある。スポーツ活動でも「部費」「会費」があり、オモテとは別のカネが動いている。
このようなダブルスタンダードの社会では、なにが贈与でなにが裏金・賄賂かという判断は司法の法律論だけでは決着がつかない。今回も、検察の思惑、捜査状況によるが、それを決めるのは、国民感情である。
はたして、どこまで国民は許すのか?それを考えると、メディアと評論家の社会正義に基づくコメントは、なにをいまさらという感じだ。
(了)
この続きは1月22日(月)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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