(この記事の初出は2024年2月13日)
バブル期とは構成銘柄も株主もまったく違う
バブル期の株価とほぼ肩を並べたからといって、あの当時のような好景気がやって来るわけではない。なんといっても、あのころの日経平均といまの日経平均はほとんど別物だからだ。
日経平均の構成銘柄のうち、バブル期と比べて3分の2以上が入れ替わっている。
かつて、銘柄の入れ替えは、倒産企業が出たり、合従連衡で企業が消滅したりした場合に限定されていた。それが、1991年からは、ルール変更で、流動性が低い銘柄を新興の成長銘柄と入れ替え、市場の新陳代謝を図るようになった。
その結果、毎年のように入れ替えが起こり、かつては入っていなかった東京エレクトロンやファナックといったハイテク株が多く採用されるようになった。つまり、バブル後の最高値更新といっても、過去とは比較できず、日経平均の連続性はすでに失われている。
しかも、いまの株式市場は「官製相場」である。日本の企業の株を多く持っているのは、日銀とGPIF(年金)であり、この両者を合わせた公的マネーは、東証1部の約1970社のうち4分の1にあたる474社で筆頭株主となっている。
それにこの両者は株を売らない。したがって、市場は買い手のほうが多いから、株価は上がる。
1%台の経済成長でなぜ30%も上がるのか?
では、ここからは、株価とは関係ない日本経済の現状を書き留めておこう。テレビを見ていると、コロナ禍明けから景気は活気付いているように思えるが、旺盛な消費をしているのは円安で観光に訪れた訪日客(インバウンド)だけである。といっても、団体旅行が制限されているから、中国人の「爆買い」はない。
日本の庶民は、スタグフレーションで財布の紐をひたすら絞っている。2月6日に厚労省から去年の実質賃金の発表があったが、それによると、前年比2.5%減で、名目では1.2%増えているものの物価上昇に追いついていない。
この状況を改善するには、物価上昇を上回る大幅な賃上げが不可欠だが、その賃上げ率は3.6%と試算されているが、そんなことができるわけがない。
それでは、肝心の経済成長のほうはどうだろうか?
2023年の数値はまだ確定していないが、予測値では実質GDP成長率は+1.5%とプラスである。また、政府発表の今年の成長率予測は+1.3%である。
しかし、プラス成長とはいえ、2022年まではコロナ禍だったことを考えれば、1%台ではむしろマイナスである。しかも、名目GDPでは、IMFの見通しでドイツに抜かれ4位に転落してしまった。
さらに1人当たりの名目GDPで見ると、日本は3万4064ドルでなんとOECD加盟38カ国中21位。韓国やスペインと同水準で、G7では最下位に転落している。
このような状況で、株価が昨年来約30%以上も上がるのだから、実体経済とは関係ないとするほかないだろう。
「実物取引市場」と「金融取引市場」は違う
こう考えてみるといい。
いまの市場には、二つの市場があると。一つは「実物取引市場」。ここは、需要と供給に基づく経済原則によって、モノやサービスの価格が決まる。もう一つは「金融取引市場」で、ここで取引される株や債券などの金融商品は、経済原則に左右されない。
金融取引市場にいる投資家やトレーダーは、需要と供給に基づいて金融商品を取引しているわけではない。単に上がると思うから買うのだ。もちろん、この逆もある。
もう一つ、これまでの金融緩和でおカネがあまっているので、株を買うということもある。日銀のマネタリーベースは異次元緩和により、この10年間で約3.3倍も膨れ上がっている。しかも、物価が上がっている以上、おカネを持っていたら目減りするだけだ。
さらに、株価は時価だから、上がればさらに買える。また、取引していなくとも持っているだけで利益が出る。その利益は、実体経済での利益とは別物だ。
こうしたことにより、株価は実体経済からどんどん乖離していく。
(つづく)
この続きは3月11日(月)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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