連載577 山田順の「週刊:未来地図」コロナワクチン誕生秘話(2) なぜ日本はワクチン開発ができなかったのか?(中)
日本のワクチン開発の「お寒い」現状
現在、日本では、塩野義のほか、アンジェス、KMバイオロジクス、第一三共、武田薬品、IDファーマなどが、ワクチンの開発を進めており、そのうちの一部は治験に入っている。
政府の2020年度第2次補正予算では、生産設備などの費用を補助する「ワクチン生産体制等緊急整備基金」1377億円が計上されたが、このうちの900億円あまりが、これらの会社にすでに助成されている。
以下、各社の現状をまとめると、次のようになる。
・塩野義製薬は前記したように遺伝子組換えタンパクワクチンを開発・治験中で、治験状況はもっとも進んでいる。
・アンジェスは大阪大学と共同開発を進め、治験も進んでいる。アンジェスが目指すのは世界初のDNAワクチン(遺伝子情報をプラスミドDNAに組み込んで投与するワクチン)で、生産にあたってはタカラバイオなどの参画を得ることになっている。
・KMバイオロジクスは、不活化ワクチンを開発・治験中だが、アストラゼネカと提携しており、アストラゼネカの日本生産の製剤化も担当している。
・武田薬品工業は、独自のワクチンを開発せず、モデルナのmRNAワクチン、ノババックスの遺伝子組み替えタンパクワクチンを技術移転により国内生産することになっている。
・第一三共は独自にmRNAワクチンを開発・治験中だが、治験の最終段階のフェイズ3に入るのは来春と言われている。
・IDファーマは、ウイルスベクターワクチンを開発中だが、まだ動物実験の段階で治験に入っていない。
「ワープスピード」作戦でモデルナに補助金
このように見てくると、日本のワクチン開発は、世界に比べて周回遅れ、いや2周も3周も遅れていると言わざるをえない。すでに、なぜこうなったか? その原因はいくつか指摘されているが、ここからは、1点にしぼって考えてみたい。
それはもちろん、日本政府の戦略性のなさ、平和ボケぶりである。ワクチンが国の安全保障を左右する重要物質だという認識が、日本政府には完全に欠けていた。
この点をはっきり認識していたのは、アメリカ、中国、ロシアおよび欧州各国である。とくにアメリカは、世界覇権国であるせいか、政府、民間ともに、この認識は強烈だった。
中国が発表した新型コロナウイルスの遺伝子情報を得るやいなや、モデルナは開発を開始した。そして、2020年3月半ば時点で、臨床試験をスタートさせている。
トランプ前大統領は、このとき、「コロナは単なる風邪」と言っていたが、連邦政府の中枢部は、即座に「ワープスピード」作戦を立ち上げ、大統領に具申した。
こうして、モデルナに、保健福祉省の「BARDA」(生物医学先端研究開発局をとおして、いきなり9億5500万ドルの補助金が注ぎ込まれた。政府はワクチン供給に関してもモデルナと契約を結び、1億回分を15億2500万ドルで買い取ることを決定した。
(つづく)
この続きは7月23日(金)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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