連載630 山田順の「週刊:未来地図」 アメリカ覇権の衰退とドル危機の再来か?(中1)
(この記事の初出は8月31日)
自国通貨の急落で過熱するインフレ
アフガニスタンには、自国通貨「アフガニ」(Afghani)がある。しかし、その対ドルレートは、カブール陥落とともに急落し、全土で激しいインフレが発生した。
カブール陥落後の1週間で、小麦粉、食用油、コメなどの価格が約20%上昇した。こうなると、ドルに頼るしかないが、もとより、この国にはドルがほとんどない。
少ないドルとアフガニを求めて、人々は銀行に駆け込んだ。しかし、多くの銀行は店を閉じ、預金は引き出させなくなった。中央銀行が機能停止してしまったので、民間銀行に資金が行かなくなったからだ。
もっとも引き出せたとしても、自国通貨アフガニの価値は失われる一方となっている。
「MMT理論」の信奉者によれば、中央銀行はいくらでも自国通貨を発行できるので財政は破綻しないと言う。しかし、アフガンのように自国通貨の下落によるインフレが起これば、まったく無意味。彼らはアフガンの現実をどう説明するのだろうか。
こうなると、ともかくドルだけが頼りだが、国民のほとんどはドルを持っていない。そのため、今後、インフレで生活が成り立たなくなれば、多くの国民が難民化し国外脱出を計ると思われる。しかし、ドルを持っていなければ脱出は不可能だ。
タリバンは、国民の国外脱出を阻止すると言っているので、ドルの賄賂を使うしか、これを逃れる道はない。
信じがたい資金源のケシ栽培の中止
タリバンの資金源の中心は、ケシの実からつくる 「アヘン」(opium)である。タリバンは、アヘンの取引によって資金を得て、これまで内戦を戦ってきた。
アフガニスタン、パキスタン、イランを含む「黄金の三日月地帯」は、世界最大のケシ栽培地域となっていて、欧米諸国で流通するヘロインの80%以上がアフガン原産と言われている。
国際社会は、タリバンの人権無視、とくに女性蔑視とテロへの関与を大きな問題としている。しかし、それ以上に大きいのが、人間そのものを破壊してしまう麻薬の生産と密輸だ。
タリバンは、国際社会の承認を得る狙いから、8月18日に、農民に対しケシの栽培をやめるよう指示した。現地からの報道によると、ケシの主要産地カンダハルでは、村人たちの集会にタリバンの幹部がやって来て、ケシ栽培は禁止されるだろうと伝えたという。
しかし、資金難に陥っているタリバンがアヘンの生産をやめるだろうか。ポーズに過ぎないという声が強い。しかし、市場とはじつに正しいもので、タリバンのケシ栽培禁止の発表受けて、アヘンの価格は大幅に上昇した。
(つづく)
この続きは10月18日(月)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 ※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

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