連載662 日本を襲う「円安地獄」: 円を持っているだけで貧しくなる! (完)
岸田首相は相変わらずバラマキを約束
11月1日、衆議院選挙を受けて岸田総理大臣は自民党本部で記者会見し、「みなさんからいただいた1票1票の重みを胸に、今後はスピード感を政策実行の面で発揮していく」と語った。
しかし、どんな政策を行うのか、いまなお不明だ。はっきり述べたのは、次のバラマキ(給付)の2点だけである。
「大型の経済対策を11月中旬に策定し、年内のできるだけ早期に補正予算を成立させて国民の皆さんに一刻も早くお届けをする。経済対策には非正規、子育て世代などで生活にお困りの方へのプッシュ型の給付金を盛り込み国民の生活を支えていく」
「事業主向けの給付金については地域、業種を問わず来年3月まで見通せるようなかたちで持続化給付金並みの措置を盛り込み、雇用調整助成金の特例措置を来年3月まで延長する。経済再生に向け消費を喚起するため安全安心なかたちに見直したうえで『Go Toトラベル』の再開を検討していく」
これでは、経済は回復しない。スタグフレーションは防げない。円安はさらに進行する。
経済の自律的回復をサポートするのが、政府の仕事だ。単に、個人や企業などの経済単位におカネを供給しても、経済はよくならない。よくならないばかりか、かえって悪化する。
黒田日銀が陥った史上最大のジレンマ
資源価格の上昇は1国の政策で止められるようなものではない。ただし、為替レートは、金融政策によって変動させることは可能だ。通貨の下落は、たいていの国にとって好ましくないので、日本と同様、通貨安に見舞われた国は、すでに利上げに踏み切っている。
韓国、ニュージーランド、ノルウェー、ブラジル、メキシコなどの中央銀行は、この8月からこれまでの間に相次いで利上げに踏み切った。
しかし、黒田日銀は、まったくそんな気はない。というのも、利上げすれば、財政ファイナンスを行ってきたために、債務超過になってしまうからだ。
いま、日銀がもっとも恐れているのは、これ以上の円安の進行だろう。そうなれば、できない利上げを行わざるを得ない状況に追い込まれる。つまり、金融緩和の終焉である。
そこで、先日の会見で、黒田総裁は現在の円安は“悪い円安”ではないと、ホラを吹いたのであろう。
もし万が一、「円安は日本経済にとって好ましくない」などと本当の分析を口にしたらどうなるだろうか?
そのとき市場は、さらに円安を仕掛けてくるだろう。どんどん円を売り込んでくるだろう。そうなると、もう円安は止まらず、スタグフレーションは進み、この国の経済は悪化の一途をたどる。「円安地獄」の到来だ。
そんな可能性もあるので、もはや、円を持っていてはいけない。
(了)
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山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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