連載720 どうなるスタグフレーション:伝統的な方法による生活・資産防衛は可能か?(中3)
(この記事の初出は1月25日)
世界と異なる「1人スタグフレーション」
このように、世界中でインフレが進むなか、日本はどうなっているのだろうか?
現在のところ、政府にもメディアにも、なぜかインフレに対する危機感がない。公式の経済指標がインフレを示していないせいなのか、それとも認識力がない(=鈍感)せいなのか、その辺のところはわからない。ただ、これまで発表された公式統計は、次のようになっている。
2021年9月のCPIは前年比0.2%、10月は同0.1%増、11月は同0.6%増、12月は同0.5%増。これは、アメリカの7%に比べれば圧倒的な差だ。
しかし、この数字は、中国と同じく、現場感覚とは大きくかけ離れている。じつは、日本のCPIには通信料金が含まれていて、この引き下げがあったので、CPIは微増ですんでいるのだ。通信料金を外して計算すると、日本のCPIはすでに2%を超えている。
実際、ガソリン価格は、すでに10月末時点で1リットル160円を超え、今年に入ってからは170円に迫っている。また、スーパーに並ぶ多くの食料品、砂糖、小麦粉、バターなども、昨年秋から続々と値上がりしている。
このような物価上昇は、石油などのエネルギーや穀物価格が上がったことに加え、為替が円安になったことが大きく影響している。円安は、輸入原材料の高騰をもたらし、企業収益を悪化させる。そのため、ギリギリまで耐えた企業も値上げに踏み切らざるをえなくなったのである。つまり、「悪い円安」が起こっている。
しかし、日本の物価上昇がアメリカのインフレと違っているのは、アメリカでは時給や給料が上がっているのに対し、日本ではまったく上がっていないことだ。アメリカでは、人手不足にともなう労働需給の逼迫が賃金上昇を引き起こしている。ところが、日本ではかなりの業界で人手が足りないというのに、賃金上昇はまったく起こっていない。
つまり、世界のなかで日本だけが、「1人スタグフレーション」と言っていい状況にある。
スタグフレーションでは貨幣価値が下がる
では、ここから、インフレ(スタグフレーション)をヘッジするためにどうすべきか? 生活・資産をインフレから守るにはどうしたらいいかを見ていきたい。
現在、「インフレ防衛」「インフレ対策」などのキーワードでネットを検索すれば、山のようにウェブサイトが出てくる。その多くは記事に見せかけた広告か、ホンモノの広告で、投資信託、金(ゴールド)、外貨預金などの投資に、読者をいざなうようになっている。
ただし、インフレについての基本的な解説は間違っていない。どのサイトも、インフレの最大の問題は、貨幣の価値が下がること。つまり、おカネを持っていることが、最大のリスクになると言っている。これは間違っていない。
簡単な話、スタグフレーション下で物価が2倍になれば、現金、預貯金は額面では目減りしなくとも、実質的な価値は半分になってしまう。現金、預貯金を持っていればいるほど貧しくなるのだ。つまり、今後はおカネをそのまま持っていることは自殺行為である。そこで、いかにヘッジするかということがテーマになる。
これをまとめると、次のようになる。
景気が悪いのに物価が上昇する→景気が悪いから給料は上がらない→消費が減ってさらに景気が悪化する→現金、預貯金の価値が低下する→現金、預貯金をほかの資産にヘッジする。
(つづく)
この続きは3月9日(水)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 ※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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