兵庫県・城崎でのライブの話。 今僕はニューヨークから一時離脱し、1カ月だけ日本をツアーで回っている。以前、函館で知り合った女性が、わたしの大好きなカフェが兵庫県の城崎にあると。そこは街も店主もカフェも素敵なところなので、是非いつかそこでライブをして欲しいと言われた。

城崎といえば温泉街、城崎温泉のあるところ。東京から行くのにはとても不便で距離もある。そして僕は温泉街があまり好きじゃない。日本中、どの温泉街も「温泉街的」だからだ。僕はテーマパークが好きではない。みんながその場所を楽しむために、その場所を楽しめる服を着てアクセサリーをする。温泉街もみんな旅館の浴衣を着て、その街に同化する。コンビニですらそれに合わせて茶色になり、その街を一緒に作ってる。そう、温泉の湯は肌にあっても、その場所をみんなで一緒に作っている感じが僕の肌には合わない。
まあそんな偏屈な男が城崎に行くことになった。函館のその女性が素敵な人なので、素敵な人が好きな場所や人も素敵だろうと、その一点でその街に行った。ライブ会場は城崎温泉街の川沿いを上ったところにある「OFF」と言う店。ライブ前に店主の人とワインを乾杯、少しの会話だったけど、心地よく、好きな空気を持った人だった。ライブは彼らが集めてくれたお客さんたち。僕のネタが彼らの空気の中を稲妻のように走った。赤ちゃん連れがいて、大泣きしていたけど、それすら気にならないようにみんな大笑いしてくれた。
ライブが終わり、店主やその仲間たちと夜な夜な、そのカフェの前にある橋の上に椅子を並べ、店主が選んだワインを飲み、語り合った。みな、自分の色を持っていて、その色がいい感じに重なっていて、暖かいぼんやりとした色の時間だった。明日の出発前にコーヒーが飲みたいと言ったら、そこにいた隣のカフェの店主がコーヒーを淹れてくれると言った。
そこであるおばあちゃんの話になった。何カ月か前からアメリカ人の75歳のおばあちゃんがその店で働いてる、と。彼女は家族でアメリカから城崎温泉に旅行で来て、この街とこのカフェが気に入り、突然紙切れに自分のメールアドレスを書いて渡してきたらしい。そして「ここで雇って欲しい」と。一言も日本語の話せない彼女だけど、アメリカにいる彼女とここの店主がメールでやりとりし、3ヶ月だけ採用されることに。その75歳の女性はアメリカから再度、ひとりで城崎にやってきて、ここで今働いてるらしい。飯が食えないから仕事が欲しいってハングリーな精神ではなく、人生に素直で「楽しそう、ここで働きたい」ってただその素直な気持ちと行動力。
僕は44歳、彼女よりだいぶ若い。僕は彼女より年老いてるように感じた。いい話が聞けた。城崎の橋の上でワインを飲んだ夜のことだった。
Profile:村本大輔
「アメリカでスタンダップコメディーがしたい」と2024年2月に、単身でニューヨークに来たウーマンラッシュアワー・村本大輔(43)。日本のテレビ界を抜け、アメリカのコメディーシーンに魅力を感じ自分を試すため、毎晩コメディークラブに飛び込みオープンマイクを握る。この連載では、そんな彼がニューヨークという劇場を舞台に繰り広げる、一筋縄ではいかずともどこか愛おしいニューライフをつづります。
公式INSTAGRAM
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公式X
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ドキュメンタリー映画「アイアム・ア・コメディアン」
https://iamacomedian.jp/
過去のエピソード
第1回 「パクチーが、言えない」
第2回 「This is America!」
第3回 「あの日々は夢だった? 竜宮城(日本)より」
第4回 「にぎやかな街と、僕」
第5回「保険に入っていなくて、病院にかかった」
第6回 「言葉を絵の具のように」
第7回「マイノリティーを責めてはいけない」
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