ニューヨークでは、シーズンごとにあちこちで日本酒のイベントが開催され、どこも満員御礼。そして会場を見渡すと、お客さんの中に日本人の姿はほとんどなく、日本酒を楽しげに吟味するニューヨーカーたちで賑わっている。そんな光景を見ると、日本人として誇らしい気持ちにもなる。

筆者は昨年、何気なく訪れた日本酒イベントをきっかけに、ニューヨーク―つまり海外から見た日本酒の面白さに気づき、時間を見つけては日本酒に関する取材へ出かけるようになった。日本でもお馴染みの「獺祭」の桜井博志会長にインタビューする機会もあり、ニューヨークでの日本酒の盛り上がりについて尋ねると、彼はこう語ってくれた。
「海外から見る日本酒のほうが、魅力的なんだろうなと思います」これは外国人に限らず、海外に住む日本人も抱いている感情だと、桜井会長は説明してくれた。

日本では、日本酒は当たり前にある「日常の光景」であり、大抵の居酒屋にはそれなりに豊富な銘柄が揃っている。だが、そんな日本酒が一歩世界に出ると、「どういった背景から生まれたのか?」「産地はどんな場所か?」といった物語が注目され、日本酒が一つの “キャラクター” として人々の興味を惹く存在になる。そして、そのキャラクターがその土地でより輝くようにと、地元の人々が様々な工夫を施していく。
ピザやタコスとも合わせてしまうし、多国籍料理の宝庫であるニューヨークでは、無限のペアリングが生み出される。各酒蔵もそんなユニークなペアリングを期待しつつ、「和食はもちろんですが」を前提に、常に新たなチャレンジを試みている。こうした動きが、今回の特集でも取り上げた「アメリカ産の日本酒」を生み出す流れにつながっている。

以前、ブルックリンで日本人が立ち上げた酒蔵「Kato Sake Works」のオーナー・加藤忍さんに話を聞いた際には、酒造りや杜氏(酒職人)の教育も、この街のスタンダードに合わせて進めていく必要があると語っていた。それを象徴するのが、同酒蔵で働く現地採用の杜氏たちだ。面接時にはまったくの未経験だった「酒造りがしてみたい」という熱意溢れる若者たちを採用し、今では酒造りの工程を任されるほどに成長しているという。サケ・サムライのティモシーさんが特集内で語っていた「アメリカの醸造家は自分たちの酒文化をゼロから築いている」という言葉は、まさにこうした取り組みを指しているのだろう。

なぜ海外から見る日本酒が面白いのか? 日本酒文化へのリスペクトを持ちつつも、それぞれが「あるべき形」でユニークに輝き、その土地の人々から愛されているからではないだろうか。

ちなみに、桜井会長率いる「獺祭」がアメリカで生産する日本酒「獺祭BLUE」には、「青は藍より出でて藍より青し」というテーマが込められている。意味は、師を超える弟子の成長。今後さらに盛り上がりを見せていくであろう日本酒文化から、ますます目が離せない。
取材・文・写真/ナガタミユ
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