2025年6月27日 2025年の特集 6月:夏の特別号 COLUMN SPECIAL 小西一禎の日米見聞録

第17回 小西一禎の日米見聞録 日本人、日本と移民問題

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トランプ米大統領の移民政策を巡り、全米で起きたデモは日本でも大きく取り上げられた。一方、米国とは対照的に人口減少と人手不足が進む日本では、各地で外国人住民の存在感が増しているのが実情だ。埼玉県川口市のクルド人、群馬県大泉町や静岡県浜松市のブラジル人、そして全国の大学に在籍する留学生たち――。これまで「移民国家ではない」としてきた日本も、既に外国人と共に暮らす社会、「共生社会」の現実に直面している。

住人の6割が外国人の団地にて

東京都内から荒川を超えてすぐの川口市。約2500戸に上るマンモス団地「芝園団地」の住人のうち、外国人の比率は6割に上るという。主に暮らすのは、中国人と韓国人。団地内には、そうした国から輸入した食品を販売する店があり、近隣の保育園はさながらインターナショナルな様相を呈している。

川口市の人口(今年1月時点)は約61万人で、外国人は4万8千人ほど。人口比では8%弱になる計算だ。市のデータによれば、市内に居住する外国人の国籍は、中国が2万5千人を超え、ベトナム、フィリピン、韓国、ネパール、トルコ、インドネシアと続く。「川口市のクルド人問題」は盛んに取り上げられているが、人口構成をみると、クルド系が大半を占めるとみられるトルコ人の人数が断トツなわけではないことが分かる。

クルド人の多くは、トルコでの迫害を逃れて日本にたどり着いた人々。難民認定を申請しているものの、認定率はわずか1%台だ。認定が出るまで平均で約3年かかるとの背景もあり、多くが「仮放免」の立場に置かれ、就労や移動に制限を受けながら生活を続けている。健康保険にも加入できず、病院に行けない人も目立つという。彼らを支えるのは一部のNPOやボランティアで、制度としての支援は限定的だ。そうした中、クルド人が経営する料理店に対する嫌がらせ電話やSNSへのデマ投稿など急速に広がるヘイト問題が影を落としている。

一方、大泉や浜松では、1990年代以降に「日系人」として来日したブラジル人たちが定着している。自動車や楽器関連の工場で働き、地域に家を持ち、子どもを育てながら日本での生活を築いてきた。公立学校ではポルトガル語通訳の配置や補習授業が行われ、商店街にはポルトガル語の看板が並ぶ。こうした地域は「共生のモデル」とも言われるものの課題も少なくない。言語の壁や教育格差、非正規雇用の不安定さ、不登校や進学率の低さなど、構造的な困難が根強く横たわっている。
定員確保で留学生受け入れ

そして見逃せないのが、大学に通う外国人留学生の存在だ。いわゆる移民とは言い切れないものの、18歳人口の減少により、国内の私立大学は定員確保のために留学生の受け入れを急拡大させている。授業料収入の柱として期待され、寮や奨学金の制度も整いつつあるが、実際には言葉の壁や経済的負担から、深夜のアルバイトに追われる学生も目立つ。日本語が不十分なまま授業についていけず、途中退学するケースもあるという。制度的には「学生」だが、実態としては「半分労働者」のような生活を送っている留学生も少なくないとされる。

こうした状況を踏まえると、日本における「移民」とは単に制度上の在留資格の問題ではなく、既に地域や教育現場に入り込んでいる実態そのものと言える。外国人住民や留学生は、もはや「外から来た人」ではなく、地域や大学を構成する一員として共に暮らしている。受け入れる側がその認識と責任を持てるかが問われている。

外国人との共生は、もはや選択の問題ではなく、既に起きている。川口のクルド人、浜松のブラジル人、大学の留学生たち――。どのように彼らと向き合い、共に生きる社会をどう築いていくか。日本社会が直面している課題は、決して遠い世界の話でも、遠い未来の話でもない。

3年3カ月に及んだ駐夫生活の後、フリーランス活動を経て、今春から常勤の大学教授に就任しました。「政治記者から駐夫、そして大学教授へ」という渡米前は考えもしなかったキャリア形成ですが、令和の今、キャリアの中断は必ず「武器」になります。駐妻、駐夫の皆さん、頑張ってください!

小西 一禎(こにし・かずよし)
千葉科学大危機管理学部教授。ジャーナリスト。慶應義塾大卒後、共同通信社入社。2005年より政治部で首相官邸や自民党、外務省などを担当。17年、妻の米国赴任に伴い会社の休職制度を男性で初取得、妻・二児とともにニュージャージー州フォートリーに移住。在米中退社。21年帰国。コロンビア大東アジア研究所客員研究員を歴任。駐在員の夫「駐夫」として、各メディアに多数寄稿。「世界に広がる駐夫・主夫友の会」代表。専門はキャリア形成やジェンダー、海外生活・育児、政治、団塊ジュニアなど。著書に『妻に稼がれる夫のジレンマ~共働き夫婦の性別役割意識をめぐって』(ちくま新書)、『猪木道~政治家・アントニオ猪木 未来に伝える闘魂の全真実』(河出書房新社)。

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