美食家として知られる北大路魯山人は言った。「ふぐを恐ろしがって食わぬ者は、『ふぐは食いたし命は惜しし』の古諺に引っかかって味覚上とんだ損失をしている。その論拠の価値をきわめもせずに、うかうか古諺に釣り込まれ惜しくも無知的判断から、いやいや常識的判断から震え上がりその実、常識を失っている」と。確かに命は惜しいが、今が旬のふぐを食べたいと願うのは人間の性。その魅力に迫る。
ふぐ食わぬは、非常識?
四季折々の料理を提供しているミッドタウンの老舗「梓レストラン」では、期間限定で数々のふぐ料理を提供中だ。そして、現在提供されている「虎ふぐフルコース(一人前:110ドル)」は、湯びき・鉄刺・鉄ちり(雑炊付き)・ひれ酒・デザートと、ふぐを贅沢且つ豪快に堪能できる大満足のメニュー。
めっきり寒い今日この頃、クリスマスムード漂うニューヨークの街を抜けて暖かい店内に入ると〝日本に帰ってきた〟ような和やかな雰囲気と温かい笑顔が迎えてくれる。では、いざ実食。
まずは、湯びき。これは、ふぐの皮を細切りにし、湯にさっと通したもの。酒との相性は言うまでもなく、抜群。艶やかに光るふぐ皮に刻みネギともみじおろしが食欲をそそる。これを特製ポン酢でいただく、柔らかい歯ごたえとこりこりとした触感がたまらない。ちびちびと味わっていたら、「豪快に食べると、もっとおいしい」と廣瀬料理長。試してみると確かに、鮮度のよさを感じられる風味と独特の触感が口一杯に広がり、旨かった。
お次は鉄刺。ふぐ料理といえば、刺身を思い浮かべる人も多いはず。扇形に盛りつけられた身は高級感たっぷり、これにゆずを少し垂らしめねぎを巻いて食す。口当たりは上品だが、適度に厚切りされた身は食べ応えがあり、満足感を得られる。
旨いものは、口の中で黙って語る
ふぐ酒が運ばれてきた。日本酒にふぐのひれを浮かべて飲むわけだが、下ごしらえには手間がかかっている。身から切り落とされたひれを天日で干し、その後に料理長自ら、丁寧にひれを炙っているという。酒を飲むというより、上等なふぐの風味を存分に楽しむという印象。
そして、最後は鉄ちり。豆腐やしいたけ、えのき、白菜などのお馴染みの食材の上には、贅沢に切られたふぐの身が盛りつけらている。お店の人が、丁寧に鍋の中へふぐを入れてくれ、「今が食べ時です」との絶妙な声掛けをしてくれる。その〝おもてなし〟も特別な時を感じさせてくれる。厚切りのふぐは、柔らかく口の中でほどけていくような食感。ぽん酢の中にさっと潜らせ、食べる。〝うまい瞬間〟を逃さず、一番おいしい時に食べて欲しい。
同店のふぐのおいしさは、ふぐが黙って口の中で語ってくれる。そして、少しでも多くの人たちに、ふぐの魅力を知ってほしいという同レストランの料理長をはじめ、スタッフの思いが込められたコースだ。
食通、ふぐ上級者を唸らせる一品も?
フルコースはもちろんのこと、仕入れの状況などによるため運がよければだが、料理長が腕をふるってくれる裏メニューに遭遇できる。同店の廣瀬料理長は、下関をはじめ、関西でふぐを扱っていた経験があるため、さまざまなふぐの味わい方を知っている。その腕があるからこそ提供できる特別な一品は、グルメな老若男女を唸らせる。

梓レストラン
3 E 44th St (bet 5th & Madison Ave)
Tel: 212-681-0001
営業時間:ランチ=月~金:12pm~2:30pm
ディナー=月~金:5:30pm~9:30pm
土:5pm~9pm
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