『Ruth Asawa: A Retrospective(ルース・アサワ:回顧展)』が10月19日よりニューヨーク近代美術館(MoMA)で開催される(会期:2026年2月7日まで)。サンフランシスコ近代美術館(SFMoMA)とMoMAのキュレーターによって企画された没後初の個展である。最初はSFMoMAで、2025年4月〜9月2日まで300点の作品が展示された。

私は、ニューヨークの暑さと湿気を逃れてサンフランシスコに行き、彼女の回顧展と地元で設置されたパブリックアートを鑑賞した。多くの人が知っているように、サンフランシスコの夏は涼しく、ときには寒いほど(摂氏10度台〜20度台)。SFMoMAの会員ニュースレターの地図には、アサワのパブリックアートの設置場所が示されていた。今回、全10か所のうち6か所を訪れることができたので、これを機会にアサワのパブリックアートを紹介したいと思う。
アサワのパブリックアートは、彼女の作品活動の重要な部分であり、彼女という人間そのものを表している。アサワは1949年以来サンフランシスコの住民として家族を育てながらアーティスト、教育者、市民リーダーとして活動した。彼女がコミュニティの中で、いかに精力的であったかは、そのパブリックアートから理解することができる「パブリックアートはできるだけ多くの人に関わり、楽しんでもらわなければならない」とアサワは信じていた。批評家からは、彼女のパブリックアートは代表作であるワイヤー作品とは似ても似つかないと批判されたが、よく見ると彼女の工夫する力の幅広さや、地域社会を巻き込んだ創造プロセスが見えてくる。
アサワの最も初期のパブリックアートは、フィッシャーマンズ・ワーフ近くのギラデリ・スクエアに設置された人魚の噴水《アンドレア》(1966–68)である。ここはギラデリ・チョコレートの工場跡地で、国内初の再開発プロジェクトにより、商業スペース、レストラン、ホテルを含む複合施設として再生された。当時の所有者は、アサワの抽象的なワイヤー作品を知っていたことから彼女に委託した。彼女は構想に1年、制作法の模索に次の1年を費やし、結果としてカメやカエルとともに2人の人魚を配した噴水を完成させた。アサワは「年配の人には子どもの頃の幻想を思い出させ、若い人には年を取ったときに思い出す何かを与えたい」と語っていた。アサワは、授乳中の友人アンドレアの体を人魚のモデルにした。当時(1960年代半ば)は公共の場での授乳が今日以上に物議を醸す行為だった。6人(うち2人は養子)の母であるアサワは、人魚の一人が赤ん坊に授乳する姿を彫刻に取り入れ、遊び心を示すとともに世論の挑発を試みた。カエルは、彼女の子供達が母の日のプレゼントに中華街で買ったカエルが車の中で逃げ、アクセルの下に入り込んでしまったエピソードに因んでいる。人魚の鱗の尾の質感は、彼女の吊り下げ式ワイヤー作品を思わせる。アサワは深夜に噴水を設置した。設置後シャンパンを開けて祝った写真も残されている。噴水の背後にはサンフランシスコ湾が広がっている。
2005年、ゴールデンゲートパークにあるサンフランシスコ美術館群のデ・ヤング美術館 M. H. de Young Memorial Museumが再建され、再オープンした。アサワは、旧館(1895年建設)がロマ・プリエタ地震で大きな損傷を受けた1989年から1997年まで同館の理事を務めていた。彼女は展示スペースが2倍に拡張された新館に感銘を受け、銅、真鍮、モンテル・ワイヤーで制作された作品15点を寄贈し、1階の非対称タワーの展望台へと続く入り口のギャラリーに設置した。これらの作品は50年間にわたり制作されたもので、アサワは「歴史的に重要な作品」として自ら選び、「誰でも私の作品を勉強したい人は美術館に行けば見られるように」と、娘のアイコ・クネオに語った(The Noe Valley Voice, 2005年11月号)。入館料を払わなくても見られるようにすること、そして売却しないことを寄贈条件としている。
私が見たとき、展示作品は15点なかった。同行した友人にそのことを話すと、職員が来て、2点はSFMoMAでの展覧会に貸し出し中だと説明してくれた。また、一部の作品は20年間吊り下げられてきた影響(つまり重力)のため、清掃後再調整して最近掛け直されたそうだ。また、作品はすべてアサワが決めた位置に展示されていて、そこに常設展示されているとのことだった。



参考: ruthasawa.com
文/中里 スミ(なかざと・すみ)
アクセサリー・アーティスト。アメリカ生活50年、マンハッタン在住歴38年。東京生まれ、ウェストチェスター育ち。カーネギ・メロン大学美術部入学、英文学部卒業、ピッツバーグ大学大学院東洋学部。 業界を問わず同時通訳と翻訳。現代美術に強い関心をもつ。2012年ビーズ・アクセサリー・スタジオ、TOPPI(突飛)NYCを創立。人類とビーズの歴史は絵画よりも遥かに長い。素材、技術、文化、貿易等によって変化して来たビーズの表現の可能性に注目。ビーズ・アクセサリーの作品を独自の文法と語彙をもつ視覚的言語と思い制作している。
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