関心のある分野で高度な研修を受けながら、アメリカ生活を体験しようと毎年、世界中から約30万人の若者がJ-1ビザ交換プログラムで来米する。しかしニューヨークタイムズの調査によると、一部の企業はこのビザプログラムを安価な労働力の供給源として悪用し、農場労働者、家政婦、事務員として雇用している。23日付のニューヨークタイムズは、ビザ労働者へのインタビュー、裁判記録や規制文書の精査などの資料を基に、J-1ビザプログラムが搾取の供給源となった実態をレポートしている。

◆ 肉体労働強いられ、重症を負う者も
ロングアイランドにあるカート・ワイス・グリーンハウスはアメリカ最大級の植物育苗施設の一つで、ホームデポやウォルマート、コストコなど全米の店舗に花や多肉植物を供給している。同社は労働力の確保を目的に約20年前からJ-1ビザプログラムの利用を開始。現在では年間最大70人のJ-1ビザ労働者を雇用している。彼らにはアメリカ文化を学び、植物栽培の訓練を受ける機会が約束されている。しかし、その実態は最初の契約とは大きくかけ離れたものだった。
申し立てによると、毎日何時間も組み立てラインで働き、蒸し暑い温室内で過酷な肉体労働を強いられた。会社の監督者は休憩を取ったり作業が遅いと、しばしば怒鳴りつけ、国外退去をほのめかして脅したという。重傷を負った者もいた。ある若い労働者はフォークリフトに手を挟まれ粉砕された。別の女性は保護具なしで温室作業中に化学薬品を浴び、嘔吐と皮膚の発疹を引き起こした。さらに別の労働者は重い花の台車が倒れて肩を脱臼し入院。負傷後は解雇されセルビアに送還された。記録によれば、2014~17年、同社では37件の労働災害と1件の死亡事故が記録されている。
◆ 最低賃金で酷使
温室での繁忙期には週60~70時間も定期的に働かされ、最低賃金しか支払われていなかった。また、ネズミやゴキブリが蔓延する薄汚い会社のトレーラーに住むために、給料から毎月200ドルを差し引かれていた。
◆ J-1プログラムにおける虐待の全容
信頼できるデータが存在しないため、虐待の全容を数値化することは困難だ。国務省はプログラム参加者が職場での虐待について苦情を申し立てる頻度を記録しているが、その情報の開示を拒否している(ニューヨークタイムズは情報を得るため国務省を提訴)。
スポンサー組織のロビー団体による調査では、J-1ビザ保持者の大半がプログラムで良好な経験をしているとされている。しかし労働弁護士や専門家は、プログラムを悪用する悪質な事業者が存在すると指摘。危険な労働環境、業務中の負傷、上司からの嫌がらせ、賃金窃盗などである。
労働者が職場で問題を抱えた際にはスポンサーが介入するが、賃金未払い、危険な労働環境、文化体験の欠如についてスポンサーに訴えても、彼らは軽視したり取り繕ったり無視することが多いという。
◆ トランプ政権のスタンス
現政権下でJ-1ビザは主要課題とはなっていない。文化交流産業のロビー団体によると、このプログラムは納税者に一切の負担をかけず(外国人労働者からの手数料で賄われる)、労働者が一定期間滞在した後、帰国するため、トランプ氏の国内政策と合致するという。また議会や企業からも絶大な支持を得ており、この制度なしでは労働力不足を補えないと主張する声も多い。
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