■「ディープシーク」の登場が衝撃的だった
アメリカで「中国に敗けるのでは」という認識が広まったのは、トランプのTACO「Trump Always Chickens Out(トランプはいつもビビってやめる)ぶりもあるが、低コストで高性能な生成AI「ディープシーク」の登場が、衝撃的だったせいもある。
トランプですら「AI行動計画(アクションプラン)」を策定して、中国にAI覇権を奪われないことに必死にならざるをえなくなった。
中国のAI開発の猛追は凄まじい。「ディープシーク」ばかりか、「ムーンショットAI」などの新興ハイテク企業が、次々に最新モデルを発表している。これを北京が強力にバックアップしている。
「オープンAI」CEOのサム・アルトマンは、5月の公聴会で「われわれがどれだけ先を行っているのかを正確に測るのは非常に難しい。大きな時間的リードがあるとは思っていない」と述べている。
中国がAI分野でアメリカを追い抜くという観測は、人材育成にあるという見方がある。中国では、すでに小学校からAI教育が導入され、AIによる公共サービスが多岐にわたって行われている。この差は大きいというのだ。もう一つ、中国有利とする見方がある。それは電力供給である。
■AIが必要とする電力において中国と圧倒的な差
マッキンゼー・アンド・カンパニーは、米中のAI覇権争いを電力供給の面から分析し、中国有利とするレポートを公表している。
AIは24時間365日、絶え間ない電力を必要とする。しかも莫大な電力を消費する。そこで、電力供給の面から米中をみると、中国のほうがはるかに技術も能力もあるというのだ。
アメリカには、首尾一貫した継続的なエネルギー計画がない。実際、バイデン前大統領の再生可能エネルギーへの転換政策は、トランプによって骨抜きにされてしまった。
しかし、中国は強権国家であるため、再生可能エネルギーへの転換を推し進めつつ、最新技術による石炭火力発電も拡大させ、さらに原子力発電も数多く稼働、また新設もしている。トランプは「掘って、掘って、掘りまくれ!」に転換したが、石炭火力も原子力発電も、中国にはまったく及ばない。
ちなみに、原子力発電においては、中国には現在58基の稼働可能な原子炉があり、その総発電容量は60ギガワット。そして現在、少なくとも30基の原子炉が建設されている。これに対してアメリカは93基の原子力発電所が稼働しているが、新規建設が許可されているのはわずか5件のみという。
■温暖化、気候変動対策での遅れは致命傷か?
温暖化、気候変動に対する政策は、これが次の時代の経済を左右するなら、この分野でアメリカが中国に敗けるのは明白だ。
すでに前回のメルマガで詳述したので、ここでは触れないが、これはトランプの致命的な誤りである。
トランプのアタマの中には、「脱炭素」などという言葉がないので、これを3年も続ければ、次期政権がパリ協定に復帰し、脱炭素政策を再開しても手遅れになる。
中国がここまで温暖化対策に邁進するのは、酷暑、干ばつ、水害など気候変動から国民を救うためではあるが、それが将来にわたる巨大なビジネスでもあるからだ。
すでに、中国はEV、蓄電池、太陽光パネル、風力発電などの分野で、独占的なシェアを持っている。これが、将来に渡り、大きな利益をもたらすのは確実だ。
温暖化対策は今後、経済的な利益を生み出すのである。これを、なぜトランプがわかっていないのか、理解できない。
■自由と民主主義と市場経済を捨てればアメリカの敗け
「米中逆転」とは、ゴールドマン・サックスが今世紀初めに言い出したことだ。これを2030年代としたが、この予測は外れるというのが近年の見方だ。それは、コロナのパンデミックがあり、不動産バブル崩壊で中国経済が大きく失速したからである。
しかし、それはGDPだけの話で、経済規模の問題であり、ハードパワーとソフトパワーがもたらす覇権の問題ではない。
このまま、アメリカがトランプ“独裁”により、中国と変わらない強権国家になってしまえば(すでになっている)、それはとりも直さず第2の中国だから、本家にますますかなわなくなる。
アメリカが、「自由と民主主義と市場経済」を捨てしまえば、西側世界も崩壊に向かう。NATOも日米安保関係も破綻する。国連、WTO、IMF、NPTも機能しないのだから、中国のほうが有利になる。
本当に最悪の世界が、今後、訪れようとしている
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山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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