2025年10月24日 COLUMN 山田順の「週刊 未来地図」

山田順の「週刊:未来地図」 トランプは本当に「TACO」だった!中国に融和しロシアに強硬という180度転換のなぜ?(完)

■「ウクライナは勝てる」と突如、方針転換

 トランプの大転換(=TACO)は、対中ばかりか対ロシアではもっと顕著だ。これまでは、ゼレンスキーに事実上の降伏を迫り、プーチンの言い分と同じようなことを言ってきたのが、突如、「ロシアは張り子の虎にすぎない」「ウクライナは全土をロシアから取り戻せる」「ウクライナは勝てる」と言い出したのだ。
 この発言は、ニューヨークで開かれた国連総会で1時間近く「オレ様はすごい」「お前らはバカだ」演説をした後にSNSに投稿された。これを知った世界の外交官、報道関係者は、耳を疑った。
 そして言われたのが、国連総会に合わせてゼレンスキーと会談したことで、なにか吹き込まれたのではないかだった。
 しかし、その後、トランプの方針転換を裏付けるように、茶坊主の副大統領JDヴァンスが長距離射程のミサイルト「マホーク」を欧州経由でウクライナに供与することをインタビューで認めた。また、ゼレンスキーもトランプにトマホークを要請したことを明かした。
 トランプは「利」にだけには聡い男である。プーチンとのアラスカ会談後、大攻勢に出たロシアが苦戦、苦境に陥ったという情報から、勝てないロシアを見限る方針転換を計ったと考えられる。ただ、ロシアに対する反転攻勢をNATO諸国にやらせるということが、トランプの汚いところである。

■「地獄に落ちる」という国連演説のひどさ

 それにしても、トランプには、世界観、歴史観というものがない。信念も思慮も判断力もない。だから、風向きが変われば、言うこともコロッと変わる。
 トランプがとんでもない大統領だと、とことんわかったのが、今回の国連総会での演説である。不平と不満を露わにし、不適切発言を繰り返し、自画自賛はしっかりと行い、ノーベル平和賞をもらえないことを愚痴ったうえ、自分以外の人間はみなバカだとぶちまけたのである。
 トランプは国連を「空虚な言葉」ばかりだと強く非難して、「自分は7つの戦争を終わらせ、それぞれの国の指導者と交渉したが、合意をまとめるため支援したいとの電話が国連からかかってきたことは1度もなかった。国連から受け取ったのは2つだけ、壊れたエスカレーターと壊れたプロンプターだ」と言った。
 トランプはまた、温暖化、気候変動対策を「史上最大の詐欺」と揶揄し、国境開放は国の破壊を招くとして、世界の主な国々を槍玉に挙げた。
 英国とドイツはクリーンエネルギー政策、ギリシャとスイスは移民受け入れ政策でバカ呼ばわりし、ブラジルは検閲と弾圧を行っていると非難した。そして、出席者に向かって、「あなた方の国々は地獄に落ちる」と述べたのである。

■月周回の有人宇宙船、来年2月に打ち上げ

 あまりに「TACO」すぎるとはいえ、トランプにただ1つ期待していたことがある。それはイーロン・マスクと組んだことで、「有人月面探査」、その先にある「有人火星探査」という「アルテミス計画」の遅れが挽回されるという期待だ。
 アメリカは、宇宙開発まで中国に急追され、アルテミス計画が遅れれば、2030年を目指している中国に、有人月面探査で先を越される懸念があった。なにしろ、本来の計画通りなら、2024年に人類は再び月に行っているはずだった。
 それが遅れに遅れて、先日、9月23日に、やっとNASA(アメリカ航空宇宙局)は打ち上げを2026年2月5日(遅くとも4月まで)に行い、有人宇宙飛行船で月を2周すると発表した。これがうまく行けば、2027年の半ばに有人月面着陸が行われる。
 そうなれば、アポロ以来60年を経ての「人類月面到達」となる。

■人類の夢、未来をぶち壊す「火星探査」中止

 アメリカに対抗して中国は、独自のアプローチで月面開発を進める「嫦娥計画」を行ってきた。もし、こちらに先を越されたら、アメリカの面目は潰れるばかりか、世界覇権も失いかねない。
 それなにに、トランプは「減税法案」=「1つの大きく美しい法案」(One Big Beautiful Bill Act)で、宇宙開発予算を大きく削った。ただし、アルテミス計画だけは削らなかった。
 とはいえ、イーロン・マスクと仲違いしたことで、今後、どうなるかわからない。月まではいいとしても、次の火星は削られて実現しない可能性が出てきた。
 イーロン・マスクの計画では、スターシップは2028年後半に火星に向けて出発し、2029年前半に人類は火星の大地に立つ。火星は、人類の夢、未来をつくる惑星である。やがて人類は惑星間移動を果たし、地球文明は惑星間文明になる。これをトランプはぶち壊しにしてしまうかもしれないのだ。
 トランプは就任演説(inaugural address)で「アメリカ人宇宙飛行士を火星に送り込み、星条旗を立てる」と宣言した。これも裏切ったら、やはり史上最悪、最低の大統領になるだろう(いや、もうなっている)。(了)

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山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

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