2025年10月30日 COLUMN 山田順の「週刊 未来地図」

山田順の「週刊:未来地図」 高市新首相は亡国への道か? トランプ80兆円献上と防衛費増額という難関(下)

■サナエノミクスは大多数の一般国民にとって悪夢

 すでにメディアが無責任にも名付けた「高市トレード」は始まっている。株価が最高値を更新するなか、円安は進行し、物価は上昇を続け、債券価格は下落している。
 これは、投資していない大多数の一般国民にとっては、悪夢である。
 第2のアベノミクス(本人はサナエノミクスと笑顔で命名)は、金融緩和を続けて政策金利を引き上げることはせずに大胆な財政出動をする。野党が要求する減税(ガソリン暫定税率の引き下げ、給付付き税額控除、消費税減税など)も行うというものだ。
 いまの日本にそんなことをする余力、財源はない。したがって、赤字国債を発行することになるが、高市はそれを「やむを得ない」としているのだから、驚きである。
 市場は、次の政権は財政規律を重視し日銀の金融正常化をバックアップしていくと見ていた。だから、10年債利回りは2008年以来の高水準で推移してきたものの、それ以上の上昇は抑えられてきた。
 しかし、高市になった以上、今後は違う。すべての年限の国債金利は上昇し円安は進行していくだろう。

■トランプが日本に迫る80兆円の支払い

 ただでさえ、「茨の道」を行かなければならない高市新政権だが、すぐに大きなハードルが待ち受けている。トランプ大統領の来日だ。
 トランプは、日本に2つのことを迫ってくる。1つは、関税交渉で石破・赤沢コンビが約束した“置き土産”5500億ドル(約80兆円)投資の即時の実行だ。もう1つは、岸田政権が約束した防衛費増額GDP比2%のさらなる上乗せである。
 一部メディア、一部の識者しか指摘しないが、80兆円対米投資は、完全な「不平等条約」であり、外交の大失敗である。じきに“逃亡する”(お役御免)ので、赤沢経済再生相は「為替には影響しない」という発言を繰り返しているが、これは明らかなウソ、言い逃れである。

■通貨スワップを利用すれば金利支払いが生じる

 赤沢は、10月1日に、FCCJ(日本外国特派員協会)に呼ばれ、為替への影響について「基本的にないようにオペレーションしていく」と述べたが、それを信じる者はいない。
 なぜなら、彼が説明した投資資金の調達方法には、外国為替資金特別会計(外為特会)や埋蔵金、日銀とFRBの通貨スワップなどがあるが、いずれにせよ、日本側は5500億ドルのドル現金を用意しなければならないからである。
 トランプはすでに、韓国に対して約束した3500億ドルをキャッシュで払えと言っている。
 仮に5500億ドルの多くを通貨スワップで調達するとすれば、金利の支払いが生じる。これまで、保有米国債で得られてきた年間約6兆円の利子収入は吹き飛んでしまう。これが日本財政に与える影響は計りしれない。

■すべての面で日本が口を挟む余地はない

 巨額な金額はもとより、投資スキームも完全な不平等条約である。トランプが、「野球選手が受け取る契約金のようなもの」「アメリかが好きなように使える」と自慢するのも当然だ。
 商務長官のラトニックは、「投資先はトランプ大統領自身が決定し、決まれば45日以内に日本が資金を提供し、利益の90%はアメリカが持っていく」と述べたが、まさにその通りになっている。
 投資先を選定するために、日米は合同委員会なるものをつくるが、トップにはアメリカの商務長官が就き、委員会が選んだ投資先候補の中から、大統領が投資先を選ぶ。
 こうして決まった投資先は、日本に通知され、その通知を受けて日本は投資資金を直ちに入金する。投資に関しては特別目的事業体(SPV)を設立し、その管理者はアメリカ側が指名する。
 そうして、投資から得られた最終利益(出るかどうかわからない)は、日本10%、アメリカ90%で分配される。このスキームによる投資は、2029年1月19日まで随時行われるとされる。
 これのどこに、日本が口を挟む余地があるだろうか?

この続きは10月31日(金)に掲載します。 
本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

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