2025年10月31日 COLUMN 山田順の「週刊 未来地図」

山田順の「週刊:未来地図」 高市新首相は亡国への道か? トランプ80兆円献上と防衛費増額という難関(完)

■結局、保有米国債の半分を巻き上げられる

 投資先として有力視されているのが、石破訪米でも提示されたアラスカの天然ガスプロジェクトのパイプライン敷設事業である。
 しかし、これは採算が取れないと、三菱商事も二の足を踏んできた。それ以外に候補に上がっている事業があるが、どれもアメリカ企業が絶対に投資しないような事業だ。
 このようなことから予想されるのは、80兆円はまったくの無駄金で、円安を加速させるだけ。そして、日本財政を圧迫し、国民の負担をさらに招くものになるということだ。
 結局、日本が保有している米国債約1兆1000億ドル(持っていれば利子収入がある)のちょうど半分をアメリカに返上することになる。米国債というのはアメリカの借金だから、アメリカは対日借金を半分に減らす。
 しかも、米国債主体の外貨準備は、日本の対外信用を支えている。それが大きく毀損されることになる。

■間違いなく要求される防衛費増額GDP比3%

 トランプが、80兆円投資とともに要求してくると思われるのが、防衛費の増額だ。すでに岸田政権時にGDP比2%を約束し、そのために2023年度〜2027年度の防衛費の総額を43兆円とすることを決めたが、それだけでは足りないと言ってくるのは間違いない。
 この問題のキーマン、国防次官(政策担当)のエルブリッジ・コルビーは、対中戦略の一環として日本も主要な役割を担うべきとし、防衛費を少なくともGDP比で3%に増額すべきだとかねがね主張している。
 トランプは、昨年の大統領選時に、台湾に対して防衛費をGDP比10%まで増やすべきだと発言し、日本に対しては、その少なさに不満を述べている。
 現在、日本の防衛費はドル換算で韓国を下回り、台湾に対しても3倍ほどに過ぎなくなっている。アメリカの安全保障を同盟国にさらに担わせようというトランプの姑息な戦略は、いまや止めようがなくなっている。

■高市新政権が目指すべきなのは「小さな政府」

 はたして、高市新首相は、アメリカの要求をどう乗り越えるのか? 80兆円投資にしても、防衛費増額GDP比3%にしても、借金放漫財政を続けてきた日本には、それに充てる財源がない。これ以上の増税をしようものなら、連立は維持できないばかりか、政権そのものが国民の信頼を失い崩壊する。
 となると、高市新政権がやるべきは、積極財政ではなく緊縮財政であり、徹底した現実主義路線である。政府部門を縮小し、不要な省庁や独法は整理・解体し、できうるものはみな民営化し、議員と公務員を削減して歳費を削る。つまり、「小さな政府」を目指すのだ。
 イーロン・マスクがDOGEやったような改革をやるべきだろう。
 そうではなくて、「足りなければ赤字国債発行もやむを得ない」などと言って「大きな政府」を目指せば、円安はますます進み、インフレは止まらなくなり、国民は貧困化する。

■トランプ関税をめぐる合意の「見直し」を主張

 9月28日、高市はフジテレビ「日曜報道」に他の総裁候補者と出演し、トランプ関税をめぐる合意に関して、保守タカ派らしい意見を述べた
 80兆円投資が日本の国益を損なう部分があった場合、「しっかり物を申していかなければいけない。再交渉の可能性もある」とし、トランプ政権が設置する投資委員会が具体的な投資案件を決めるスキームに関しては、「私が首相になった場合は実施過程を注視する」と言ったのだ。
 はたして、彼女はこの言葉を実行できるだろうか?
 トランプ来日時の首脳会談で、「合意見直し」を本当にトランプに主張できるだろうか? どこからどう見ても大きく国益を損なうのだから、減額させるのは無理としても、せめて投資先や利益配分などの条件を変更する交渉をすべきだろう。
 しかし、「親米保守」でトランプの“茶坊主”だった安倍元首相の申し子が、そんなことを言えるだろうか。防衛費増額に関しては、タカ派だけに一も二もなく、笑顔でOKしてしまうだろうが、80兆円にノーと言えるわけがない。
 それなのに、メディアは、これが亡国の道であることを隠し、「日米同盟の強化で合意」「高市首相、堂々の外交デビュー」などと報道するだろう。
9月4日の「ウォール・ストリート・ジャーナル」は、先のテレビ出演で高市が関税合意の再交渉の可能性に触れたことを指摘し、仮に高市が再交渉を目指せば「大きな摩擦を引き起こすことになる」という専門家のコメントを報道した。
 このままでは、高市は日本を亡国に導くことになる。

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山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

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