アメリカでは、ADHD(注意欠如・多動症)と診断された数百万人の子どもたちが刺激薬を中心とした薬物治療を受け、そこから抗精神病薬や抗うつ薬へと「連鎖」するケースが急増している。幼少期から複数の精神薬を併用することの長期的影響はほとんど検証されておらず、専門家は強い懸念を示している。ウォール・ストリート・ジャーナルが19日、伝えた。

2022年の連邦データによれば、約710万人の子ども(3〜17歳)がADHDと診断され、その約半数が薬物治療を受けている。処方数は増加傾向にあり、特に幼児への早期投与が顕著だ。ウォール・ストリート・ジャーナルが2019〜23年のメディケイド(低所得者向け医療保険)データを分析したところ、19年にADHD薬を開始した3〜14歳の約16万6000人は、非服用児に比べて4年後に複数の精神薬を服用している確率が5倍以上であることが判明した。追加される薬は抗精神病薬、抗うつ薬、睡眠薬など多岐にわたり、刺激薬の副作用(不眠、情緒不安、不安感、攻撃性など)を新たな疾患と誤認して薬が上乗せされるケースも少なくない。
本来、未就学児には行動療法が第一選択とされるが、4〜5歳児でも診断後30日以内に薬物治療を開始する例が4割を超える。19年に新たにADHD薬を処方された子どものうち、事前に行動療法を受けていたのはわずか37%にとどまり、薬物が実質的な“第一選択”となっている実態が浮き彫りになった。背景には、①行動療法を提供できる専門家の不足 ②医療機関の極端に長い待機期間 ③学校や保育施設からの強い圧力(退園・退学の懸念)などの要因がある。多くの保護者が「学校生活を維持するための最後の手段」として薬物治療を選ばざるを得ない状況が続く。
幼い子どもへの多剤併用については、医学界から強い警告が発せられている。コネティカット州のハートフォード病院付属リビング研究所の精神科部長で小児・青年精神科医のジャヴィード・スケーラ博士は「科学的根拠から見て、小児において2種類以上の精神薬が有効となるケースは非常にまれであり、相加的な副作用のリスクは避けられない。発達途上の脳に対する長期的影響も分かっていない」と指摘している。
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