高市内閣の最優先課題は、首相自ら言うように「物価高対策」である。ならば、物価を押し上げている最大の要因である「円安」を一刻も早く是正すべきだろう。
ところが、高市首相はアベノミクスの継承を唱え、「責任ある積極財政」を推し進めるという。しかも、必要なら赤字国債の発行も容認するというのだから、驚くしかない。そんなことをすれば、円安が加速するのは、金融・経済の常識だ。
「高市トレード」などという言葉が生まれ、景気は良くなり、日本経済は復活するようなムードになっているが、それは大いなる勘違い。
今後、さらに円安は進み、国民生活は困窮化する。はたして円安はどこまで行くのか?ドル円=200円はありえるのか?
ともかく、円を持っていてはいけない。この国で生きていくのに必要な円以外はすべてドルに交換し、円資産もすべて手放すべきだ。

■ドル円110円時に書いた『円安亡国』『永久円安』
私は、アベノミクスが始まったときに、すでに今日の円安をはっきりと予測していた。どの程度の円安になるかはわからないが、こんなこと(異次元金融緩和)を続ければ、円の価値は毀損され、いずれ取り返しのつかないことになると警告した。
そして、当時、2冊の本を書いた。1冊は『円安亡国』(文春新書)。もう1冊は『永久円安』(ビジネス社)である。
この2冊の本を書いた当時、2014年から2015年にかけて、ドル円は110円前後だった。その後、ドル円は105円から115円のレンジで推移してきたが、コロナ禍が開けた2022年後半から一気に下落し、2024年6月には160円台をつけた。そして、いまは150円台で推移しおり、ずっと円安基調が続いている。
■「失われた30年」から「さらに失われる40年」に
この円安基調は、今後も続き、円は再び160円台になり、さらに170円、180円もあり得るのだろうか? じつは私は、そのように予測している。高市政権が誕生したからだ。
まさに、本のタイトル通りの永久円安が、高市政権が政策を変更しない限り続くだろう。
なぜ、私は『円安亡国』『永久円安』などという本を書いたのか?
それは、ひと言でいえば、日本の国力が落ち続け、今後も回復は見込めないと思ったからだ。経済が好調で繁栄している国家なら、国債発行による金融緩和などする必要はない。
つまり、アベノミクスは苦し紛れの借金に頼った経済刺激策であり、それはかえって経済を悪化させる。金融緩和だけでは、経済は回復しない。
実際、そのようになって、いまの日本は「失われた30年」から「さらに失われる40年」に突入している。
■なぜインフレのいまアベノミクスをやるのか?
アベノミクスを、高市首相は継承すると言っている。失敗が明白なアベノミクスを復活させ、自ら安倍元首相の継承者であることを認め、「責任ある積極財政」を提唱している。そして、必要とあれば国債発行も容認するとしている。
そんなことをしたらどうなるか?
アベノミクスのときはデフレだった。だから、デフレから脱却し、インフレ基調に持って行こうというのが政策目標になった。しかし、いまやインフレである。まったく状況が逆のときに金融緩和を続けたらどうなるか?
火に油を注ぐというが、まさにそうなるのは明白だ。インフレは止まらなくなるだろう。円はさらに毀損され、円安も止まらなくなるだろう。
■「金利を上げるのはアホだ」という“迷”発言
高市政権は、最優先課題に「物価高対策」を挙げている。全野党も、同じく「物価高対策」を最優先課題として政府に迫っている。その1つとして、すでに年内のガソリンの暫定税率の廃止が決まった。
しかし、このような減税措置は小手先の対策にすぎない。物価高を抑制するなら、インフレの本当の原因、つまり「円安」を止め、「円高」に持っていくしかない。つまり、もうこれ以上の国債発行はせず、現行の0.5%という政策金利を引き上げるしかない。
ところが、高市首相は、自民党総裁選のとき「金利を上げるのはアホだ」と言ったぐらい、肝心なところがわかっていない。
■小手先の「物価高対策」より「円安是正」
金利の引き上げは、本来、「物価の番人」とされる中央銀行の仕事で政府の仕事ではない。しかし、政府は日銀に圧力をかけてでも、これを実行させなければ、本当の「物価高対策」にならない。
しかし、これができない状況に、アベノミクスの異次元緩和(=財政ファイナンス)が政府を追い込んでしまった。アベノミクスは巨額の国債残高を積み上げた。そのため、金利が1%上昇しただけで、国債償還費が年間3兆7000億円も増えることになってしまった。
つまり、金利がアメリカ並みに4%になったら、日本の財政は逼迫し、予算が組めなくなってしまう。
しかし、そうは言っても金利を上げずに円安を容認したままでは、物価高対策は意味をなさない。ガソリンの暫定税率廃止を例にとれば、このところ原油価格は下落傾向にある。それなのに、日本だけガソリン価格が高止まっているのは、円安だからである。
したがって、たとえば5円でも円高にすれば、暫定税率を廃止する必要などない。財源をどうするなどと言って論争する意味もない。ほかの物価高対策も同じだ。
■日銀の金利据え置きで一気に円安が進む
日銀は、10月29、30日に開催した金融政策決定会合で、政策金利を6会合連続で据え置いた。据え置きに反対したのは、9人中2名だけ。
植田総裁はじめ、委員が政府の窮状を考慮したか、あるいは政府の圧力があったかであるが、真相はわからない。いずれにせよ、政府も日銀も国民の暮らしなど眼中にないと言える。
金利据え置き決定後の会見で、植田総裁は、「利上げの確度は高まっている。もう少しデータを確認したい」と述べた。毎回、同じ発言の繰り返しである。つまり、様子見で、結論は先送りというわけだ。
物価が約3%上昇しているなかで、金利が0.5%という状況が続けばどうなるか? 円は日毎に価値を失っていく。ドル円は日銀会合後の30日夜、海外市場で一時154.45円となり、155円乗せ目前となった。
■財務省は「高市円安」をただ黙って見ているだけ
現在、円安が進む最大の原因は、ひとえに高市政権の金融・経済に対するスタンスにある。アメリカのFRBも欧州のECBもここにきて金利を引き下げ、日本との金利差が少しだが縮まったにもかかわらず、円高にはならなかった。つまり、「高市円安」と言っていい。
この先、FRB、ECBとも、金利の引き下げはない。とくに、FRBはパウエル議長が「12月の会合での利下げ決定は既定路線ではない」と発言している。よって、「高市円安」は、さらに進んでいくだろう。
片山さつき財務相は10月31日、円安が進んでいることに対し、「足元は、かなり一方的な、急激な動きが見られている」と述べ、続けて「(為替は)ファンダメンタルズを反映して安定的に推移することが重要」としたうえで、日銀が利上げを見送った判断については「現在の諸般の状況を鑑みれば、極めてリーズナブルな決定」とした。
はたして、どこがリーズナブルなのだろうか?
こうした発言は、財務省が円安を容認している、ただ黙って見ているだけと捉えられるのは間違いなく、投機筋はますます円安に張っていくだろう。
この続きは11月26日(水)に掲載します。
本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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