2026年1月9日 COLUMN アートのパワー

アートのパワー 第69回 東京ロケ(その2):『Tokyo Vice』(下)/『レンタル・ファミリー』(上) 

エーデルスタインは読売新聞を去った後、日本語で回想録『トウキョウ・バイス: アメリカ人記者の警察回り体験記』を書き、2009年に英語、フランス語、スペイン語、ハンガリー語、イタリア語で翻訳・出版された。しかし、政治家のヤクザ関与や性スキャンダルに触れているため、日本語版は2015年にアマゾンドットコムが電子出版するまで出版されなかった。書籍版は2020年に講談社から発売されている。Eブックの前書きによると、英語で出版した本は「外国人向けに書いたもので、もともと日本で取材した事件や日本語で行われた会話やメモを英訳した「ノンフィクション」の作品で、日本語版がいつか出せるようになった時には元の資料を使って「日本語版」ではなく「日本版」を出したいと考えていたという。

(Photo: 『レンタル・ファミリー』の公式プレスリリースから)

フリーのジャーナリストとして、エーデルスタインはロサンゼルス・タイムズ、ザ・アトランティック、ザ・デイリー・ビーストなどのアメリカの媒体にも寄稿している。TEDxHANEDAでは日本のメディア検閲について語り(現在、日本は世界で61位とウズベキスタンなどと同程度の順位だが、2020年には11位と、ノルウェーやスウェーデンに近い高い位置にあった。彼は原因の一端を福島第一原発事故にあると言っている)、また、米国務省の依頼を受けて人身売買について調査を行う、Lighthouse(旧・ポラリスプロジェクトジャパン)の理事およびアドバイザーを務める他、企業調査も定期的に行っている。

妻(日本人、元ジャーナリスト)と2人の子どもは現在、ミズーリ州にある彼の実家の敷地内にある三層構造の“パゴダ風の家”に住んでいて、その家はかつて日本を訪れたことのあるエーデルスタインの父親が設計した。これは、エーデルスタインが山口組の後藤忠政がUCLA医療センターで肝臓移植を受ける見返りにFBIへヤクザ活動の情報提供を行った件を報じた後、ヤクザから殺害予告を受けたためである。彼は2008年から2012年まで東京警察の保護下に置かれ、形式的には2015年まで続いた。
シーズン1は日本ではWOWOWで放映され、現在は米国とカナダでHBO Maxにて配信中である。

参考文献:
The New Yorker Magazine, “All Do Respect” by Peter Hessler, Jan. 1, 2012
Hollywood Reporter, “Insider Calls B.S. on Tokyo Vice Backstory” by Gavin J Blair, Apr. 29, 2022

現在上映中の『レンタル・ファミリー』という甘く思いやりに満ちた映画が、感傷的な作品であることに異論はないが、現代社会において人と人との個別の暖かいつながりがいかに重要であるかをとらえている。私は、家族代行業というビジネスが、主に東京、関西の都市部で繁盛していることに驚いた。1990年代にハート・プロジェクトが先駆者として登場し、現在では数百もの企業が存在するという。日本のように規律が重視され、同調が求められ、外見が地位や体面を守る手段となる社会において、そのような需要があることは理解できる。シングルマザーは未だに偏見の目で見られ、こころの不安を人前で口にできず、自殺率も高い国である。

フィリップ・ヴァンダープルーグは、歯磨き粉のCMに出演したことをきっかけに日本で7年間暮らす中年のアメリカ人俳優だが、目立った役は得られず、生活にも苦労している。あるオーディションで再度不合格になった後、家族代行業の経営者と出会う。さまざまな事情や目的で“家族”が必要な人々のために、俳優を派遣するビジネスだ。フィリップは面接を受け、経営者からは「白人枠が必要なんだ」と言われる。オフィスの他のメンバーは懐疑的で、フィリップが伝統的な日本式結婚式で新郎役を務める直前に逃げ出そうとするなど、最初からつまずいてしまう。

ドラメディ(ドラマ+コメディ)では、日本にいるアメリカ人役はステレオタイプに陥りがちだ。日本人より日本人らしく振る舞おうとする外国人、あるいは“外国人は何でも分かったような顔をする”というような浅い描かれ方になりやすい。しかし映画を観ているうちに、フィリップ役のブレンダン・フレイザーの繊細な演技に目が向いた。彼は第95回アカデミー賞で『ザ・ホエール』(自宅に引きこもる“ひきこもり”で、極度の肥満を抱える大学の英作文講師を演じる作品)により主演男優賞を受賞している。自滅的で、共感に値しないような孤独な男を演じたその姿が、HIKARI監督の目に留まった。

この続きは1月13日(火)発行の本紙(メルマガ・ウェブサイト)に掲載します。

文/中里 スミ(なかざと・すみ)

アクセサリー・アーティスト。アメリカ生活50年、マンハッタン在住歴38年。東京生まれ、ウェストチェスター育ち。カーネギ・メロン大学美術部入学、英文学部卒業、ピッツバーグ大学大学院東洋学部。 業界を問わず同時通訳と翻訳。現代美術に強い関心をもつ。2012年ビーズ・アクセサリー・スタジオ、TOPPI(突飛)NYCを創立。人類とビーズの歴史は絵画よりも遥かに長い。素材、技術、文化、貿易等によって変化して来たビーズの表現の可能性に注目。ビーズ・アクセサリーの作品を独自の文法と語彙をもつ視覚的言語と思い制作している。

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