2026年1月16日 COLUMN 山田順の「週刊 未来地図」

山田順の「週刊:未来地図」ハリウッド映画もポップミュージックも衰退 トランプで失われる米「ソフトパワー」(下)

日本も顕著、世界中で進む「ハリウッド離れ」

 「洋楽離れ」と同じく「洋画離れ」も世界中で起こっている。日本の場合は、現在、国産映画が約7割、洋画が3割という「邦高洋低」の市場になっていて、ハリウッド作品はほとんどヒットしなくなった。
 今年は、邦画『国宝』が興行収入173億7700万円余りを記録し、実写邦画の記録を22年ぶりに更新し、アニメの定番『名探偵コナン』や『ドラえもん』などのシリーズも例年通りヒットした。それに比べて、ハリウッドの定番『ジュラシックワールド4』『ミッションインポッシブル8』は不調だった。
 コロナ禍前の2019年には、興収100億円を突破した映画が4本あったが、そのうちの3本が洋画(『トイ・ストーリー4』『アナと雪の女王2』『実写版アラジン』)だった。しかし、以後、洋画のヒット作品はない。
 こうした日本より、世界の主要な映画市場、中国とインドでは、国産映画のシェアが8割~9割になり、ハリウッド作品はほとんど見られなくなった。
 中国政府は外国映画の年間上映本数を約34本に制限しているが、それでもかつてはハリウッド作品『アベンジャーズ/エンドゲーム』『ズートピア』『アバター』などがヒットした。しかし、それはいまは昔のこと。今年は、国産アニメ『ナタ 魔童の大暴れ』(ナタ2)が爆発的なヒットを記録し、中国国内だけで約1545億元(約3115億円)のアニメ映画史上最高額を記録している。

コロナ禍とAIが加速させたハリウッドの衰退

 世界の映画市場は、これまで北米市場が牽引してきた。北米市場でヒットすれば、世界市場でもヒットした。しかし、こうした「ハリウッドの時代」は2020年のコロナ禍とともに崩れ去り、それがいまだに回復していない。
ハリウッドの映画産業は、現在、最悪の状況を迎えている。コロナ禍はアメリカの映画、テレビなどのエンタテイメント業界を直撃し、業界人口はほぼ半減した。また、生成AIの普及でリストラが起こり、それに対抗するストライキもあって、ハリウッドは疲弊した。
 さらに、映画館で映画を観るという習慣が、配信へのシフトで急速に薄れてきたことも、アメリカ映画の衰退を招いた。そんななか、ほかの業界と同じく、「トランプ関税」が追い討ちをかけている。過去のヒット作のシリーズものばかりになったことも、業績の悪化を招いている。
 このクリスマスシーズンは『アバター』シリーズの第3弾『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』が封切られるが、これがコケたら、ハリウッドの衰退は決定的になる。

ソフトパワーの源泉は自由で開かれた社会

 音楽も映画も、アメリカの世界覇権を支えてきた大きな力だった。こうしたソフトパワーがなければ、第2次大戦以後の国際秩序は形成されなかっただろう。
 世界は、アメリカ文化、アメリカ文明を取り入れ、それを消費することに多大なコストを払った。
 アメリカのソフトパワーの源泉は、民主的で法の支配に支えられた、自由で開かれた社会にある。アメリカは「自由の国」(land of freedom)であり、また「人種のるつぼ」(melting pot)である。それだからこそ、そこで生まれた音楽、映画などに世界は憧れ、それを取り入れてきた。
 ソフトパワーの命名者は、ハーバード大学名誉教授で国防次官補などを務めた故ジョセフ・ナイである。彼は、トランプ政権の行動様式を「ソフトパワーの破壊」と評した(日本経済新聞5月3日記事)
 ソフトパワーは、軍事力や経済力と違って、それを享受する人々を魅了し、自然にアメリカに従わせる。それをトランプは破壊している。

大学・言論の弾圧で破壊されるアメリカ文化

 トランプは様々な点で民主制度を破壊しているが、その最たるものは、2020年のトランプ支持者による議会襲撃事件で有罪とされた人々に、大統領に再選されるや恩赦を与えたことだろう。これにより、民主制の根幹、「三権の分立」は失われた。アメリカは法が支配する「自由な国」ではなくなった。
 トランプはいまややりたい放題で、移民の弾圧を手始めに、大学の弾圧、言論の弾圧まで行っている。
 トランプは、最近、政権に批判的な報道機関や記者を名指しで非難するウェブページ「恥の殿堂」(Hall of Shame)立ち上げた。これは完全な言論弾圧で、中国共産党が行っていることと変わらない。
 このままトランプのやりたい放題の独裁が続けば、アメリカは内側から破壊される。アメリカのソフトパワーは失われ、アメリカ文化に対する憧れは雲散霧消する。(了)

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山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

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