首脳会談は「悪魔」と取り引きするのと同じ
これまで、何度も書いてきたが、トランプはアメリカ大統領の使命がなんであるか、まったくわかっていない人物だ。無知・無学であろうと、思慮深くなかろうと、自分のやり方で、アメリカ国民、世界のために貢献できると、勝手に信じ込んでいる。
しかし、単なる「駆け引き」「ディール」では外交問題は解決できない。
世界覇権を握り、人類の運命を左右できる力を持っているアメリカがしなければいけないのは、駆け引き、ディールではない。この世界から、あらゆる差別、人権無視、独裁政治、強権政治、武力による支配などをなくすことだ。そうして、より世界を民主化し、平和にしていくことだ。
そのための北朝鮮に対する非核化要求である。単に核を放棄すれば、それで独裁OK、国民の奴隷化OKでは意味がない。そのような体制を保証してしまっていいのだろうか?
北朝鮮は、人民を奴隷化し、搾取している国だ。トランプのこれまでの言動を見ていると、そのことは十分に認識してはいても、それと「オレさまがやることとは関係ない」と思っている節がある。同盟国にまで制裁関税を発令するところを見ると、アメリカさえよければいいという間違った世界観に支配されている。
いずれにせよ、北朝鮮のような国家とディールすることは、「悪魔」と取り引きするのと同じだ。トランプは、自身が北朝鮮を「地上の地獄」(hell on earth)と呼んだことを忘れたのだろうか?
世界が賞賛した韓国国会でのスピーチ
トランプは、昨年(2017年11月8日)、韓国の国会で演説し、「国際社会はならず者国家の核の脅威を容認できない」として、世界中から賞賛された。これは、今年1月のダボス会議のスピーチ「アメリカ・ファーストは、アメリカ・アローンを意味しない」と並んで、トランプの演説の中でも群を抜いて素晴らしいものだ。
しかし、スピーチライターが書くのだから、本人は内容をほとんど理解できていないのかもしれない。
それでもなお、トランプは、北朝鮮に関して、こう言っている。読売新聞(2017年11月9日)に掲載された訳文より、以下、特記すべき箇所をランダムに引用したい。
《朝鮮はカルトに支配された国だ。この軍事的なカルトの中核にあるのは、朝鮮半島を征服し、朝鮮民族を隷属させることにより、父なる保護者として支配することこそが指導者としての宿命だと信じる錯乱した信念だ》
《北朝鮮では推定で約10万人が強制収容所で強制労働に従事させられ、日常的に拷問や飢餓、レイプ、殺人にさらされている。祖父が反逆罪に問われたために、ある9歳の男の子が10年間も監獄に入れられた事例が知られている。別の例では、ある生徒が金正恩の伝記のほんの細かい一節を忘れただけで殴打された》
《北朝鮮の女性は、民族的に劣等と見なされる赤ちゃんの中絶を強いられる。新生児は殺される。中国人の父親との間に生まれたある赤ちゃんは、バケツに入れて連れて行かれた。衛兵は、不純で生きる価値がないと言い放った》
《それなのに、中国は北朝鮮を支援する義務をなぜ感じるのだろうか。北朝鮮で暮らすことの恐怖があまりにひどいため、国民が政府の役人に賄賂を渡して、奴隷として国外へ送り出してもらおうとするほどだ。北朝鮮にとどまるくらいなら、奴隷の方がましだと考えるからだ》
《我々はともに、弱いことによる代価は高く、その防衛も大きな危険を伴うことを学んだ。米兵は男性も女性も、ナチズムや帝国主義、共産主義、テロリズムと戦い、命を落としてきた。米国は紛争や対立を望んではいないが、決して紛争や対立から逃げることはない。歴史上、愚かにも米国の決意を試し、打ち捨てられた体制は数多くある》
《平和を欲するなら、一貫して断固とした態度を取るべきだ。世界は、ならず者の体制が核爆発による荒廃をもたらすと脅迫するのを容認することはできない》
《北朝鮮は、あなたの祖父(金日成主席)が思い描いた楽園ではない。誰にとってもふさわしくない地獄だ》
(105回に続く)

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。
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