連載211 山田順の「週刊:未来地図」歴史を歪める利権まみれの「アイヌ新法」(中) アイヌ民族は本当に先住民なのか?

「先住民族に関する国連宣言」の大いなる矛盾

 「アイヌ新法」が国会に提出される背景には、2007年に国連で採択された「先住民族の権利に関する国際連合宣言」(The United Nations Declaration on theRights
of Indigenous Peoples)がある。日本政府は、この宣言に賛成したため、その流れで、アイヌ団体からの要望に応えざるをえなくなったのである。
 これがいかに馬鹿げたことかは、この国連宣言をオーストラリアがニュージーランドとともに反対したことで明らかだ。アメリカもカナダとともに反対した。
 なぜなら、過去の歴史を遡って彼らの権利を認めれば、白人が彼らを虐殺したり、彼らの土地を奪ってきたりしたことを認めざるをえなくなる。さらに、それによって損害賠償の訴訟でも起こされたら、どうなるだろうか? 現政府では対処できなくなる。
 ちなみに、国連宣言にあるように、「先住民」は英語で「indigenous peoples」である。意味としては、ある土地に元々いた人である。つまり、「原住民」とも言える。しかし、この先住民に対して、国連は明確な定義を決められなかった。となると結局は、「元々の住民で他民族の侵略を受けて権利を奪われた少数民族」という一般的なところに落ち着くしかない。
 とすれば、日本にはそんな歴史はないし、先住民と言えば、それは日本人である。
 オーストラリアやアメリカがやらないことを、なぜ、日本がやろうとしているのか、本当に疑問だ。自民党の政治家には歴史認識もポリシーもないと言うしかない。

東京五輪のための北海道観光の振興策

 もう1つ、今回の新法に関して、一部新聞が書いていることがある。以下、「朝日新聞」記事(2月6日付)より、引用する。

 《法案の背景には、アイヌ民族をめぐる過去の経緯や、先住民族への配慮を求める国際的な要請の高まりがある。加えて政府が狙うのは、東京五輪・パラリンピックが開催される2020年に4千万人達成の目標を掲げる、訪日外国人客へのアピールだ。
 2020年4月には、国立アイヌ民族博物館などで構成するアイヌ文化の振興拠点「民族共生象徴空間」が北海道白老町に開業。政府は年間100万人の来場を目標としている。菅義偉官房長官は昨年8月、北海道を視察した際に記者団に「アイヌ文化の素晴らしさを世界に理解してもらうことで、国際親善に貢献でき、観光振興にもつながる」と述べた。
 背景には東京五輪・パラリンピックをにらみ、先住民族問題に関心の深い欧米の人々にアピールする思惑がありそうだ》

 要するに、東京オリンピック開催にあわせての観光振興である。これは、“ええかっこしい”の、単なる「ご都合主義」ではないだろうか。
 アイヌを観光資源にする。そのための新法だというのだから、本当に情けない話である。
(つづく)

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。

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