連載459 山田順の「週刊:未来地図」ついに炭素税導入! 政府が慌てて策定した 「グリーン成長戦略」の危うさ(下)

「EV」に替えるだけで二酸化炭素は減るのか?

 炭素税以上に問題なのは、ガソリン車からEVへの早急な転換だ。単純に「EV」にしただけでは、二酸化炭素の排出量は減らない。

 この点は、日本自動車工業会の豊田章男会長(トヨタ自動車社長)が、12月17日の報道各社のオンライン取材で、語気を強めて指摘した。

 菅政権が、なんの定見も見通しもなく、欧米諸国のパクリで「30年代に新車のガソリン車販売をなくす」と表明したことに対し、豊田会長は「自動車業界のビジネスモデルが崩壊してしまう」「このままでは日本でクルマをつくれなくなる」などと発言。「EV」が製造や発電段階で二酸化炭素を多く排出することに触れ、「(そのことを)理解したうえで、政治家の方はガソリン車なしと言っているのか」と述べたのだ。

 たしかに、「EV」は電気で動くので、それ自体では二酸化炭素は排出されない。しかし、「EV」を製造する産業全体を一体として捉えなければ、カーボンニュートラルは達成できないのである。

 日本鉄鋼連盟の橋本英二会長(日本製鉄社長)も、カーボンニュートラルには懸念を表明した。橋本会長は、定例記者会見で、「(研究開発に)10年、20年はかかるので、個別企業として続けるのは無理だ」と述べ、「国の支援がなければ達成できない」と述べたのである。

「HV」「PHV」のほうが優れている

「EV」については、誤解している人が多い。かつて私もそうだった。そこで、以下、ごく簡単に説明して、問題点を整理・指摘しておきたい。

 現在、世界で走っている環境対策車(エコカー)は、次の4種類だ。

「EV」(エレクトリックビークル:電気自動車)

「HV」(ハイブリッドビークル:ハイブリット車)

「PHV」(プラグインハイブリッドビークル:プラグインハイブリッドクルマ)

「FCV」(フエルセルビーグル:燃料電池車)

 「EV」は、100%電力で動く。自宅や充電スタンドなどで車載バッテリーに充電を行い、モーターを動力として走行する。バッテリー切れ、長距離走行ができないのが難点。常に、充電スタンドでの充電が必要。二酸化炭素排出ゼロ。

 「HV」は、日本でもっとも普及しているエコカーで、トヨタの「プリウス」がその代表。エンジンとモーターの両方を搭載し、2つ動力を効率よく使い分けながら走行する。ガソリン車よりも圧倒的に燃費がよく、EVよりはるかに航続距離が長い。

 「PHV」は、「HV」と「EV」のいいとこ取りのクルマ。バッテリーに電力が残っているときは、モーターだけで駆動するEVとして走り、バッテリーがなくなったらエンジン併用のHVとして走行する。

 「FCV」は、燃料電池搭載のクルマ。水素と酸素の化学反応から電力を取り出し、得られた電力をモーターへと送り動力として使用して走行する。水素スタンドで燃料の水素の補給が必要。二酸化炭素排出ゼロ。

 こうやって比べると、「EV」「FCV」は二酸化炭素の排出はゼロだが、欠点が多すぎることに気がつく。「EV」「FCV」に比べて、「HV」や「PHV」のほうが、実用という面でははるかに優れているのに、二酸化炭素の排出をやめるという1点だけで、世界の環境政策は突き進んでいる。

(つづく)

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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