連載481 山田順の「週刊:未来地図」コロナ禍ではっきりした後x進国日本。 日本をダメにした「官邸官僚」政治の戦犯たち(中)

政策はみな誰かの「思いつき」に便乗

 最近になってようやく、菅首相に対して「“首相の器”ではなかった」と、マスメディアも言うようになった。しかし、そんなことは7年あまりの官房長官時代に、マスメディアの記者たちは十分にわかっていたはずである。それなのに、この政権の誕生時には、ほぼ全メディアが「ご祝儀報道」を超えて、「礼賛報道」を繰り返した。

 また、菅首相のことを、記者会見、答弁がペーパーの棒読みで、ボキャ貧、熱意ゼロのため、「コミュニケーション能力が欠けている」と批判する向きがある。しかし、そもそもこの人には伝えるものがないのだから、能力を問題にしても意味がない。

 というわけで、いまの日本をここまでダメにした最大の戦犯は、菅義偉首相その人である。

 それがはっきりしたのは、緊急事態宣言の発出に際してのメディアのインタビューで、「感染拡大は予想していなかった」とぬけぬけと(あるいは馬鹿正直に)言ったことだ。

 さらに、「1カ月後に事態が改善していない場合、感染対策を強化するのか?」と問われて、「仮定のことは考えない」と返答したことも、ノーテンキぶりを露呈してしまったと言えるだろう。

 「こんばんは、私がガースーです」もひどかった。最近では「生活保護がある」もひどい。もはや、“人間としての器”もないと言える。

 よって、この人がやってきた政策というのは、すべてが誰かの思いつきに便乗したものばかりだ。官房長官時代の「ふるさと納税」「地方創生」から始まって、首相になってからの「Go Toトラベル」「Go Toイート」「携帯料金引き下げ」「中小企業再編」などは、すべて愚策である。

 「アベノマスク 」よりはマシかもしれないが、それ以上に税金を使うだけに、まさに“亡国政策”である。

世紀の愚策「携帯料金引き下げ」の弊害

 「ふるさと納税」に関しては、すでに自著でも、このメルマガでも批判してきた。これによって、地方経済が活性化などするはずがなく、指定業者だけが儲かるシステムができあがる。さらに、ある自治体からほかの自治体にカネが移動するだけで、国内全体にはなんの富ももたらさない。

「Go Toトラベル」「Go Toイート」も、本質は「ふるさと納税」と同じだ。本来の需要がないところに無理やり需要をつくるのだから、経済の活性化にはならない。都市圏のカネが観光地に移動するだけにすぎない。しかも、税金というオマケ付きである。

 税金を使ってコロナの感染拡大を行ったのは、世界でも日本だけだろう。しかも、その後始末を、またも税金を使って、時短要請をした飲食店に協力金という名目でばらまいている。馬鹿げているとしか言いようがない。

 それでも、メディアや国民が歓迎したのが、「携帯料金引き下げ」だが、じつは、これはさらにひどい“亡国政策”だ。

 現在、携帯キャリア各社は、5G基地局の設置のために巨額の資金を必要としている。5Gを整備するためのコストは、4Gに比べて比較にならないくらい大きい。というのは、5Gの電波は4Gと異なり直進性が強いため、基地局の密度が4Gの十倍は必要とされるからだ。

 つまり、「携帯料金引き下げ」はこの資金を携帯キャリア各社から奪うに等しい。

 5Gネットワークの整備は首都圏から始まったが、世界に比べて大幅に遅れている。5GはAIの活用とIoT社会を実現するための基幹インフラである。これが整備されないことには自動運転車もありえない。しかも、「携帯料金引き下げ」は携帯端末の価格の上昇を招き、SIM市場の崩壊を招く。

 菅政権は、デジタル庁を設置すると言いながら、デジタル社会実現への投資を絞るというアベコベの政策を行おうとしているのだ。それに、政府が市場価格を統制しようというのだから、これは資本主義ではない。本当に愚かとしか言いようがない。

(つづく)

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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