連載739 ウクライナ戦争の勝者は中国なのか? 「台湾有事」「核武装」—-どうする日本(下)
(この記事の初出は3月8日)
台湾とウクライナを同一視はできない
ウクライナはロシアと地続きである。しかし、台湾は大陸とは海峡で隔たった島国である。ここを、軍事占領しようとすれば、渡海作戦、上陸作戦が必要になる。ロシア軍が戦車部隊でキエフを包囲したような作戦は、台湾では実行できない。当たりだが、戦車は船で運ぶ以外、海を渡る方法がない。
ミサイルと戦闘機、爆撃機だけでは、中国は台湾を占領することはできない。
とすれば、陸上の防衛戦に比べ、海上の防衛戦のほうがはるかに容易である。制空権と制海権の争いとなり、この点から見ると、現状ではアメリカ海軍、台湾海軍、日本の海上自衛隊のほうが優っている。また、海上での戦いは、民間人を巻き込まないため、アメリカも参戦しやすいだろう。
はたして、中国は海上での多大な犠牲を払ってまで、台湾に侵攻するだろうか。
もう一つ、台湾は世界20位前後のGDPを持っており、その経済を破壊することは、中国にとっても大きなマイナスとなる。なにより、台湾は半導体供給地としては世界一の重要拠点である。この点で、有力な産業が農業しかないウクライナとは大きく違っている。
こうした点を考えれば、ウクライナ戦争を見て、いますぐにでも中国の台湾侵攻があると思うのは、うがち過ぎではないだろうか。
習近平と北京の指導者たちは、そこまで愚かではない。気が熟すまでじっと待つのが、中国のやり方だ。
「核シェアリング」はまったく無意味
現 では、台湾有事とともに、議論が巻き起こっている「核武装」はどうだろうか? 発端は、安倍元首相らが提唱した「核シェアリング」だが、これは、日本の安全保障に有効だろうか? 同じように「憲法9条」の議論も巻き起こっているが、これらをどう考えたらいいのだろうか?
まず、「核武装」「核シェアリング」だが、これは、まったくもって現実的ではない。立憲民主党などの野党は、相変わらず核アレルギーがあって、「日本には非核三原則がある」と言っているが、このような化石的な主張はまったくの論外だ。憲法9条にしても、アメリカの平和のために日本の武装解除を目的としてつくられた憲法条項を、日本が守る意味はまったくない。
「核シェアリング」(Nuclear Sharing)というのは、NATOではドイツなど5カ国で実施されている、核保有国のアメリカとの合意に基づき、非保有国が共同で核兵器の運用・管理を行うというシステムだ。つまり、日本国内にアメリカの核兵器を配備し、日本とアメリカで共同で運用しようというのだ。
しかし、「非核三原則」の1つの「持ち込ませない」というのはただのスローガンで、実際には日本国内にアメリカの核はある。冷戦時は沖縄にICBMが配備されていたのだから、なにをいまさら言っているのだという話だ。
しかも、「核シェアリング」とは、もともと冷戦時に侵攻してくるソ連軍に対して、小型核爆弾や核弾頭型地対空ミサイルなどの戦術核の運用のためにできたシステムであり、核武装による「核の傘」「核による安全保障」という大きな話ではない。
したがって、これもまた現実的ではないのだ。
(つづく)
この続きは4月5日(火)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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