(この記事の初出は2024年12月3日)
日本で言う「尊厳死」は欧米とは違うもの
では、日本でよく言われる「尊厳死」とはなんだろうか?
一般的に尊厳死は、積極的な延命治療をしないで患者を自然に死なすこととされている。苦痛を和らげるための「緩和ケア」は行うが、人工呼吸、透析、胃ろうなどの延命治療は、本人と家族が望まなければ行わない。
つまり、人間の尊厳を損なわず、自然に死んでいくのが「尊厳死」とされる。
ところが、これは日本独特の解釈で、欧米では「death with dignity」(尊厳死) は、ほぼ安楽死と同じ、医師が介助する死のことを指す。医師が処方する死に至るクスリで死んでいくこと、あるいは、医師が緩和治療のみで延命させないことも含めて「尊厳死」としている。
概念として、安楽死には2通りある。
1つは、「積極的な安楽死」(active euthanasia)。これは、延命治療をやらないだけではなく、クスリなどで死に至らせること、もう1つは、「消極的な安楽死」(passive euthanasia)。これは、延命医療を行わないことで、死を迎えてもらうこと。
どちらも、欧米的には尊厳死である。
世界の安楽死を合法化している国々
現在、世界では多くの国が安楽死を合法化するか、立法化に向けての議論が進んでいる。
もっとも進んでいるのがスイスで、スイスではすでに終末期患者に限らず難病患者などに対しても、「死ぬ権利」が完全に認められている。そのため、「assisted suicide」(自殺幇助)をサポートする団体があり、自殺幇助ヘルパー(看護職の延長として)もいる。また、世界各国の希望者のために、「安楽死ツーリズム」が行われている。
スイス連邦統計局によると、自殺幇助による死亡者は年間1500人を超えている。このなかには、外国人は含まれていない。
スイス以外で、医師の薬物投与などによる安楽死が合法化されている国は、オーストリア、オランダ、ベルギー、ルクセンブルグ。カトリック信者が多いスペインでも、2021年に安楽死が合法となった。フランスでは2022年12月に安楽死の是非を議論する市民評議会がスタートし、現在、議論中だ。ドイツや北欧は禁止されているが、希望者の多くはスイスに出かけて希望をかなえている。
アメリカでは、現在、11州が合法化している。その11州とは、オレゴン、ニューメキシコ、コロラド、ワシントン、ハワイ、ニュージャージー、メイン、ヴァーモント、ワシントンDC。カナダも、合法化されている。
また、南米のコロンビア、ニュージーランドでも、安楽死は合法化されている。
日本では議論も法制化もされていない
世界がこのような状況にあるのに、超高齢化で、この問題にもっとも対処すべき日本では、議論もされていない。日本流の尊厳死は、近年、認められるようになったが、安楽死に至っては公の議論は皆無。尊厳死に関しても、法制化すらされていない。
かつて、脚本家の橋田寿賀子さんが「私は安楽死で逝きたい」というエッセイを月刊『文藝春秋』(2016年12月号)に書き、大きな反響を呼んだことがある。有名人で、これほどはっきりと安楽死を望むと言った人はいなかったからだ。しかし、橋田さんの願いはかなわず、急性リンパ腫が悪化して入院生活になった後、2021年4月に自宅で息を引きとられた。
橋田さんは、スイスの例を挙げていた。スイスの自殺幇助をサポートしてくれるNGO団体を挙げ、そこに応募したい旨を述べていた。
しかし、反響を呼んだものの、メディアも政治家もこの問題に真剣に向き合おうとはしなかった。(つづく)

この続きは1月10日(金)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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