連載769  ロシアに対する経済制裁は効かない 世界は分断され、インフレは進み、ドルまで崩壊する (完)

連載769  ロシアに対する経済制裁は効かない 世界は分断され、インフレは進み、ドルまで崩壊する (完)

(この記事の初出は4月12日

 

世界中の中央銀行が金を集めている

 世界のドル離れが加速するにつれ、金の価値がますます高まっている。市場取引の金価格の上昇はもちろんのこと、世界中の中央銀行が金を集めるようになった。
 現時点(2022年2月末)での「ワールド・ゴールド・カウンシル」(WGC)による世界の金備蓄量ランキングによると、第1位はダントツでアメリカ(8134トン)、第2位がドイツ(3367トン)、第3位が IMF(2814トン)、第4位がイタリア(2452トン)、第5位がフランス(2436トン)となっていて、IMFをのぞく上位4カ国の金保有量は、外貨準備の60%以上を占めている。
 この4カ国に続くのが、第6位のロシア(2299トン)第7位の中国(1948トン)である。ちなみに、日本は第9位(845トン)で、アメリカの10分の1強にすぎない。しかも、日本の金備蓄が外貨準備に占める割合は、たったの3.8%である。
 この金保有額から言えることは、ロシアと中国は侮れないということである。さらに、ロシアと中国は、この10年間で、世界のどこの国よりも大量に金を買っている。
 主要国の中央銀行による金保有量などの変化(2010年9月と2021年9月の比較)を見ると、増加量をもっとも増やしたのがロシアで、ダントツの第1位1543トン(25.3%)である[注:( )内は外貨準備高全体に染める増加率]。
 続いて第2位が中国で894トン(24.4%)、第3位がカザフスタンで330トン(28.2%)、第4位がトルコで277トン(24.8%) 第5位がインドで186トン(116.2%)となっている。

中国は世界第1位の金産出国、ロシアは第3位

 先に示した分断世界の2大ブロックで見れば、「非欧米ブロック」が着々と金の保有量を増やしていることがわかる。つまり、もし世界が金本位制に戻るとしたら、ロシア、中国の力は無視できず、ドルの価値はますます低下することになる。
 WGCの統計によれば、2010年9月と2021年9月の間に金の保有量を90トン以上増やした国は12カ国で、金の保有量と金以外の外貨準備高の両方を増やしたのは、ロシア、中国、トルコ、インド、タイ、ポーランド、メキシコ、ブラジル、イラク、韓国の10カ国だった。
 各国とも、自国通貨の価値を高める努力をするとともに、ドル依存を減らしているのだ。これができていないのが、日本で、なぜ円が「安全資産」と言われてきたのか、皆目わからない。
 金は世界中で産出されるわけではない。国別金の産出量ランキングでは、いまや中国が1位である。現在世界では金が1年に約3000トン前後産出されるが、中国はその10分の1である380トンを産出している。
 第2位はオーストラリア、第3位はロシアである。ロシアは広い国土の各所で大規模な採掘活動が行っており、2017年には中国と共同で金採掘のために9億ドルの投資をするプロジェクトを立ち上げている。

信用できるものがないもない世界の到来

 ウクライナ戦争を早急に終わらせ、ロシアの軍事力を叩き潰し、政権交代により、民主的な体制にしない限り、アメリカの世界覇権は低下する一方になる。この先、中国がますますロシア寄りになれば、本当に世界は2分され、日本は「欧米ブロック」のなかで、難しいサバイバルをせざるをえなくなる。
 バイデン大統領が思わず口走った「プーチンを権力の座に止まらせてはいけない」は、失言ではない。これを失言としなければならないところに、いまのアメリカの弱さがある。
 世界は、それを見透かして動き始めた。もはや、アメリカは覇権国家とは言い難い。口先だけで、信用できない国に成り下がった感がある。
 「自由、人権、民主主義」は失われ、ドルも価値を低下させ、信用できるものはなにもない。そこに、地球温暖化による気候変動が襲い、日本にいたってはスタグフレーションと円安が進んで不景気が止まらない。気がついたら、そんな世界に、私たちは生きているかもしれない。
(了)

 

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山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

 


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