津山恵子のニューヨーク・リポート
Vol.12 ジャニー問題、業界は黙認 アメリカでは30年禁固刑
故ジャニー喜多川氏のタレントに対する性加害問題は、次々と被害者が声を上げ、とどまるところを知らない。私は当初、2017年にアメリカで起きた#MeTooのうねりのように、日本でもどんでん返しの変化が起きるのではないかと期待した。当時アメリカでは、男性の映画俳優やテレビのアンカー、政治家などがセクハラや性加害で訴えられ、そろって消え去った。
ところが、山下達郎氏が7月9日ラジオ番組で、ジャニー氏の加害に対する批判は「憶測」と断じ、「今でも尊敬している」と述べた。これで、一気に日本の芸能界で性的な犯行に及んだ人々が罰せられる動きは、止まったと感じている。
ジャニー氏の「犯行」については、被害者の一人が日本外国特派員協会で記者会見を開き、勇気ある告発をした。その後、元ジュニアが次々と実名、顔出しで被害を訴えた。昭和の大作曲家である故服部良一氏の次男、吉次氏(78)は、わずか8歳の時にジャニー氏からオーラルセックスをされたと告白した。「もう2度と同じことが起きないように」というのが彼らの思いだ。
ところが、である。音楽プロデューサーの松尾潔氏が7月1日、音楽プロダクションのスマイルカンパニーに契約を中途解除されたとツイートした。同社は山下達郎氏の事務所としてスタートし、松尾氏は山下氏に誘われて契約した。しかし、契約解除は「ジャニーズ事務所と藤島ジュリー景子社長に(公式の場で)言及したのが理由」(松尾氏)という。
これに対し、山下氏はラジオ番組でこう反論した。 「松尾氏がジャニー氏の性加害問題に対して、憶測に基づく一方的な批判をしたことが契約終了の一因であった」 「性加害が本当にあったとすれば、それはもちろん許し難いこと。(中略)私自身がそれについて知っていることが何もない以上、コメントの出しようがありません」 「一ミュージシャンとして、ジャニーさんへのご恩を忘れない」
ここで、2つの問題が浮かび上がる。まず、「憶測」「知っていることがない」と言った点。被害者が告発した報道をラジオ放送の直前に集めなかった、あるいは無視したのだろう。

「ここが始まり」と話す(Twitterより)
第2に、山下氏も「ご恩」さえあれば、未成年に手を出してもいいという音楽・芸能業界の「ミニ・ジャニー」というのが露呈した。広告、メディア業界にもこうした「共犯者」が数多くいる。
本来、ミュージシャンは、音楽だけで判断したい。しかし、犯罪行為を黙認することを公共の場で表明した人の音楽をもはや聴く気にはなれない。
17年のアメリカでのきっかけは、映画プロデューサー、ハーベイ・ワインスタインが、女性の俳優らにレイプや性的暴行を加えていたというニューヨーク・タイムズのスクープだった。この後、彼は起訴されて裁判で30年超の禁固刑を言い渡された。彼の会社は破産した。#MeToo運動は世界に広がり、英国では閣僚が辞任に追い込まれた。
日本のギョーカイ関係者で逮捕者が出るまでどのくらい待てばいいのだろう。 (文 津山恵子)

津山恵子 プロフィール
ジャーナリスト。ザッカーバーグ・フェイスブックCEOやマララさんに単独インタビューし、アエラなどに執筆。共編著に「現代アメリカ政治とメディア」。長崎市平和特派員。元共同通信社記者。
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