津山恵子のニューヨーク・リポートVol.23 日本で「正義」復活の兆し アメリカはトランプを刑罰決定に

 

津山恵子のニューヨーク・リポートVol.23

日本で「正義」復活の兆し
アメリカはトランプを刑罰決定に

 

激動の2023年を振り返る。あえて「正義」についてふれたい。「愛」といった言葉と同じように口にすると恥ずかしい「正義」。しかし、アメリカではjusticeという言葉でよく耳にする。ニュースや社会にも根付いている。

かたや日本では、「桜を見る会」「モリカケ問題」「東京五輪談合」―。政治家など権力に対する忖度や尻拭いが当たり前になって、役人による隠蔽など「不正義」がまかり通っている。本来なら尊敬されるべき政治家が不正を犯しても罰せられないなら、市民も罪を犯してもいいのかと感覚が麻痺してしまいそうだ。しかし2023年、「不正義」を許さないという大きなイベントがいくつか続いた。

まず、故ジャニーズ喜多川のタレントに対する性的虐待問題。英BBCの告発ドキュメンタリーをきっかけに、1990年代から取材してきた週刊文春の報道が、主要メディアと芸能界が無視してきた犯罪行為に斬り込んだ。3月のBBCの告発から半年後、ジャニーズ事務所の会見や調査報告が出され、「山」が動いた。性的暴行で打ちのめされた被害者らが勇気を振り絞って次々に証言した。それが今まで見てみぬふりをしてきたメディアや市民の目を開いた。数百人に上る被害者らの完璧な救済は難しいだろう。しかし、80年ちかく続いた犯罪行為にとうとうメスが入った。

元陸上自衛隊員の五ノ井里奈さん(24)に下腹部を押しつけたなどとして強制わいせつ罪に問われた元陸自の上司3人には12月12日、福島地裁で有罪判決が下りた。彼女のX(前Twitter)で行方を追っていたが、その投稿からはいつも彼女の涙が滲み出ていた。告発したことに対し、心無いセカンドレイプの書き込みは尽きることはない。それだけに「有罪判決」は、法に基づく「正義」が下った瞬間だった。

権力があるなし、ジェンダーの違いにかかわらず、人権が平等に扱われることが、日本でも重視され始めた。

アメリカでの「正義」にもふれたい。トランプ前大統領は、4回起訴された。前大統領であっても裁判で有罪となれば、刑罰が確定し、刑務所入りの可能性がある。前大統領でも裁くのは、「No one is above the law」というアメリカ合衆国憲法の「法の支配」の精神である。法の支配(the rule of law)とは、国家権力の行き過ぎや支配をなくし、権力は法によって監視しようという意味だ。

トランプは、大統領時代にも2度も弾劾訴追されている。しかし、最終的には無罪となった。それでも「法の支配」を信じる人々が膨大な捜査を展開し、証人の話を聞き、起訴に持ち込んだ。

2024年には日本でもアメリカでも、もっと「正義」が広がるイベントを目にしたい。


世界でも何が正義かをめぐり、市民が活発な議論をしている Photo Keiko Tsuyama

津山恵子 プロフィール
ジャーナリスト。ザッカーバーグ・フェイスブックCEOやマララさんに単独インタビューし、アエラなどに執筆。共編著に「現代アメリカ政治とメディア」。長崎市平和特派員。元共同通信社記者。

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