アメリカの世界覇権は終焉するのか? 中国が次の覇権国なることはありえるのか? (中)

アメリカの世界覇権は終焉するのか?
中国が次の覇権国なることはありえるのか? (中)

(この記事の初出は2023年12月12日)

BBCが報道したウクライナ前線の真実

 世界覇権国が、この世界の秩序をつくる。それにしたがって、世界が安定的に動いていく。平和も経済活動も維持されていく。それが、理想的な世界であり、その世界覇権をこれまで担ってきたのがアメリカだった。
 しかし、いまのアメリカにはその余裕がなくなったと言えるだろう。ウクライナにおいては、明らかに「支援疲れ」に陥ってしまった。
 12月7日の英BBCの報道は衝撃的だった。
 『6カ月前に始まったウクライナの反転攻勢の一環で兵士の数も武器の数もロシア軍に劣る……「地獄」の前線、ウクライナ兵がBBCに証言』という記事は、もはやウクライナの勝利などありえないという現実を端的に伝えていた。
《ウクライナ軍は兵士の数でも、武器の数でもロシア軍に劣っている。前線に立つウクライナ兵の1人は、脈々と流れるドニプロ川の東岸に築いた拠点に必死にしがみつこうとする自軍の厳しい状況についてBBCに語った。》
 その証言をここに引用しても虚しいので、一つだけはっきりしていることを書く。それは、ほかのメディア、SNSなどの投稿から見て、欧米からの支援の武器はもとより、戦う兵士自体が足りないということだ。
 ここで、西側が大規模支援をしなければ、ウクライナ戦争は永遠の膠着状況に陥るのは間違いない。それは、ロシアの勝利を意味し、アメリカの覇権後退を決定的に印象付けることになる。

安保理で拒否権行使に追い込まれる

 はたしてアメリカはウクライナにおいても、イスラエルにおいても影響力を失うのだろうか? いま、その瀬戸際に追い込まれているのは間違いない。
 なぜなら、イスラエル・ハマス戦争において、イスラエルを支援するアメリカへの批判が高まったからだ。西側諸国まで、イスラエルの行為は「ジェノサイド」であり「国際法違反」だと非難する始末である。日本のメディアも、この尻馬に乗っかっている。
 世界中で巻き起こった批判のため、アメリカは仕方なくイスラエルをなだめ、なんとか一次的な「停戦」(ceasefire)を実現させた。しかし、戦闘はすぐに再開され、イスラエルはガザ南部に侵攻した。
 そのため、12月8日に、国連では再び停戦を求める安全保障理事会が15カ国によって開かれることになり、アメリカは拒否権を行使せざるを得なくなった。
 イスラエル・パレスチナ問題をつくり出したのは欧州諸国なのに、それを棚にあげて、アメリカ一国を批判する欧州は、「人道」に名を代えて責任逃れをしているとしか思えない。
 ちなみに、日本は、停戦案に賛成した。

「グローバルサウス 」というコウモリ

 アメリカの世界覇権の低下を見て、抜け目なく動き出しているのが、「グローバルサウス」(Global South)と呼ばれるようになった一群の国々とである。
 「米中新冷戦」「欧米vs.ロシア」という構図ができ上がった世界で、彼らはいま、アメリカ覇権から抜け出し、中国、ロシアともうまくやって、自国を繁栄させていこうとしている。
 西側からの「経済制裁」「ディカップリング」により、中ロは衰えているとはいえ、グローバルサウスを取り込んでアメリカ覇権への挑戦を続けている。
 インド、ブラジル、サウジアラビア、トルコなどは、この構図のなかで、中ロ側にもアメリカと西側にも“いい顔”をし、自国利益を追求している。
 とくにインドはひどい。ロシアの石油と武器を買ってロシアに恩を売りながら、日米豪との「Quad」(クアッド)と「自由で開かれたアジア太平洋」に参加して利益を得ようとしている。中国の次の「世界の工場」を狙っているのは見え見えで、完全な“コウモリ外交”(two-faced diplomacy)をやっている。
 そのインドを2033年3月に訪問した岸田首相は、なんと、2030年までに民間投資や円借款など官民合わせて750億ドル支援を表明した。空いた口が塞がらないとは、このことだろう。

(つづく)

 

この続きは1月12日(金)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

 

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