ニューヨークでの生活では驚きが「スタンダート」と化している。筆者は28歳、この夏憧れのニューヨークにやって来た新参者だ。日本(神戸)で人生の大半を過ごしたせいか、いちいちビックリするようなことが毎日のように起こるので、文化の違いやカオスな出来事を中心にポップにつづっていくことにした。
〜 一夜限りの「コメディアン」〜
ニューヨークは挑戦の街。これはみんなが口にし、自分も胸にもしまっている言葉だが、本当にそうだと思う。というか、「挑戦しやすい街」のように感じる。

昔小さな頃に「SASUKE(サスケ)」というTV番組が好きだった。挑戦者は「こんなん無理やろ!」と誰しもが思う障害物だらけのコースを乗り越え、最後に大きな跳び箱を飛び越えて、てっぺんにあるボタンを押して、ゴールとなる(記憶が曖昧だが)。
そのTV番組は、撮影現場にもギャラリーがたくさんいて、全国放送までされるので、日本国民がただ1人の挑戦者を見守るというものなのだが・・・日本で何かに挑戦するときって、少しこの感覚に似ている。周りは全力で大きな旗を持って応援してくれるけど、挑戦するのは私たった1人。失敗した時のプレッシャーの方が、大きいかもしれない。
でもニューヨークに来てからは、周りの人みんなが何かに挑戦していたり、戦っていたりするので、本番の土俵に上がりやすくなった。毎日のように地下鉄で見かける、車内でポールでダンスを披露しているチャレンジャーも良い例だ。ほとんどの人に無視されようが、彼らは決してやめないし、表情も変えない。きっと明日も明後日もどこかの地下鉄でクルクル回っているのだろう。
前置きが長くなったが、筆者はひょんな話をきっかけに「スタンダップコメディー」に挑戦することになり、カフェが併設されたコメディクラブのオープンマイクに6ドル払って出演してきた。日本にいたら絶対に飛び込むことはなかったであろう世界だが、なんだかニューヨークに来てから、「やる?」と聞かれると即答で「イエス」と言ってしまう自分が出来上がっていることに気がついた。
ネタは5分。何を話したかはご想像にお任せするが、それはもう見るに耐えなかったと思う(笑)。でもなぜか、未完成な姿を晒していると分かっていても、その瞬間を楽しんでいる自分がいた。「人生で初めて、この5分のコメディをやり終えた気持ちって、どんな感じなんだろう?」ただそれを知りたくて、マイクを握った。

結論から言えば、スタンダップコメディーは勉強要素しかなかった。英語だし、公共の場で話すパブリックスピーキングの練習にもなるし、立ち振る舞いも学べるし。自分の発音はどこが聞き取ってもらえて、どこがダメなのかもわかるし、ネタを考える過程で最近どんなことがあったかを整理する時間にもなった。
とはいえ、あれをもう一度やりたいか?と言われると、心臓に悪いので答えは「ノー」なのだが、この日自分に1つ挑戦できたことで、この「挑戦の街」の住人としてのレベルが1つ上がったように思う。
筆者のプロフィール

ナガタミユ(Miyu Nagata)エディター/ダンサー
兵庫県出身の27歳。幼少期に観た「コーラスライン」をきっかけに舞台芸術の世界にどっぷりハマって以来、20年以上踊り続けている。また、日本の出版社で編集者として活躍したのち「書いて、踊る編集者」としてさらなる飛躍を遂げるため、2024年8月から拠点をニューヨークに移す。
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