NYでホームレスの子どもが約15万人に…「世界都市」の知られざる現実

アメリカ国内には現在、シェルターに住んだり、車で寝泊まりしたりするなど適切な住環境にない、いわゆるホームレスの児童・生徒が130万人存在する。ただし、この数字は大幅に少なく見積もられているというのが大方の見方だ。2023〜24学年度、ニューヨーク市では前年度比23%増の14万人6000人と過去最高を記録。これは公立校の児童・生徒の15%を占める。3日付のニューヨークタイムズが、ホームレス児童に関する市の実態を伝えた。

ニューヨーク市では2018年、130校で少なくとも4人に1人がホームレスだったが過去5年で330校に増加。トランプ政権がさまざまなソーシャルサービスを削減する中、専門家らは今後数年間で恒久的な住まいを持たない子どもがさらに増えるのではないかと危機感を強めている。

シェルター住まいの子どもの75%は読解力が不足

ラトヤ・イヘアナチョさんは昨年、息子と娘2人の5人でブロンクスとクイーンズのシェルターを転々とする暮らしをしていた。起床は朝4時。バスと地下鉄を乗り継いで学校まで2時間だ。医療関係の仕事も辞めざるを得なかった。ネズミが出る部屋に戻るのは夕暮れ時。ストレスのせいで娘の思春期が早まった。子どもの学習は遅れた。「疲れと飢えで勉強するエネルギーはない。生きていくのが精一杯」とイヘアナチョさんは話す。

背景にあるのは手頃な住宅不足、家賃の上昇、新型コロナウイルスのパンデミックに伴う立ち退き禁止措置終了、不法移民の大量流入だ。シェルターも不足気味で、ホームレスの親子は転校に直面する例が少なくない。転校を繰り返すと学力が最大6カ月遅れるという。イヘアナチョさんが子どもたちを近くの学校に転校させないのもそのためだ。スクールバスも慢性的に遅れ、遅刻をするとネグレクト（育児放棄）を疑われる。自分で連れて行くしかない。

ホームレスの子どもの約半分は1学年の少なくとも10%を欠席している。シェルター住まいの子どもの75%は読解力が不足しているという。学力の低下から退学へとつながり、将来のホームレス状態への最大のリスク要因となる。元市議会議長で市最大のシェルターを運営するウィン（Win）のCEO、クリスティーナ・クインさんは「ホームレス生徒のニーズを包括的に把握している者は誰もいない。誰も子どものホームレス問題を優先課題としてこなかった」と憤る。「次の市長が本腰を入れて取り組むべきだ」と語気を強める。

求められるのは、教育局の枠を超える取り組み

来月4日に実施されるニューヨーク市長選では、住宅危機が親世代、単身賃貸居住者、平均所得層に与える影響を巡る議論が中心となっている。しかし、住宅不安の最も若く最も脆弱な被害者たちへの注目ははるかに低い。

民主党の指名候補で最有力候補のゾーラン・マムダニ州議会議員は、一部地域で4人に1人以上の子どもがホームレス状態にあるブロンクスで実施中のパイロットプログラムの拡大を公約。このプログラムでは、シェルターで暮らす家族と市職員を結びつけ、定期的な面談を通じて生徒の学業成績に悪影響を及ぼす可能性のある問題解決を支援している。

無所属で立候補しているアンドリュー・クオモ前知事は、ホームレスの生徒を受け入れている学校をコミュニティースクールに転換したい考えだ。コミュニティースクールは歯科治療や成人教育コースなどのサービスを提供し、子どもたちにとってより良い成果につながる可能性がある。

しかし、仮住まいの家族を支援する非営利団体アドボケイツ・フォー・チルドレンのプロジェクトディレクター、ジェニファー・プリングルさんは、ホームレス児童の成功を保証するには次期市長が教育局の枠を超えて取り組む必要があると指摘する。「学校は可能な限りの努力を尽くせる。しかし他機関からの支援がなければ、状況は改善しない」

イヘアナチョさんは最近仕事を見つけ、市営住宅抽選でクイーンズ区の2ベッドルームアパートを確保した。子どもたちは将来への希望を感じ始めている。だが、イヘアナチョさんには不安が募る。仕事を失ったら、家賃が払えなくなったら、「また、シェルター住まいに戻らなければならないと思うと…」とため息をついた。